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雪虫5 2
銀色に近い金髪と覗き込めば落ちていきそうな蒼い瞳と、あどけないと思わせる表情を浮かべている陶器でできたような肌と……長い睫毛や最近少し丸くなってくれた頬の柔らかいピンクが可愛らしくて、まるで宝物を見ている気分にさせるのが雪虫だ。
こんな可愛らしい存在が誰の心も動かさないなんてことがあるはずもない!
やっと項を噛めて番になったけれど、それでも悪さをしようとする奴はそんなことに構ったりしない。
雪虫が世間知らずなのをいいことに丸め込んで連れ込もうとする人間だっているに違いない!
「雪虫に何かあったら、オレ……」
嫌なことを想像してぶるりと震えるオレに、雪虫はちょっと難しそうな顔をして振り返る。
心配そうにこちらを覗き込んでくると、大きな空色の瞳にオレ自身が映っているのが見えて、その情けない表情に更に情けなくなった。
別に他のことなら情けなくたってなんだっていいんだけど、雪虫のことに関してだけはダメだ。
もし他にちょっかいを出されたら と思っただけで怒りが爆発しそうになるし、悲しくて落ち込んでしまう。
世の番持ちのαは全員こんな気持ちを抱えながら日々過ごしているんだろうか?
今度、複数の番がいる知り合いに聞いてみてもいいかもしれない。
「雪虫はしずる以外見てないよ?」
オレが肩を落としたからか、「つーん」と言った時の口調よりも声は幾分穏やかだ。
柔らかな産毛のせいで本当に桃のように思える頬をすり とオレに擦り付けて、「だいじょうぶ」と鼻息も荒く言う。
体が弱いからか小柄が多いΩの中でも特に小さくて細くて弱々しい雪虫は、力ずくで来られたら抵抗らしい抵抗はできない。
だからオレは特に気をつけているんだけど……
「雪虫が大丈夫なのは知ってるよ、オレが大丈夫じゃないんだって」
「しずるがだいじょうぶじゃないの? それはこまったね」
今の語尾はちょっと瀬能の言い方に似ていて、そういうところが大丈夫じゃないんだ と言いそうになったのをぐっと堪えた。
雪虫が軟禁されていた一軒家から研究所に移って、そこでも施設から出れない状態だったけれどそれでもいろいろな人と関わり合いを持つようになった。
結果、雪虫の世界は以前に比べたら驚くほどに広がって……
同じくここに匿われているΩ達と交流を持ったりするようになった。
いいことだと理解しているし、嬉しいことだと言えるのに、……でもやっぱり雪虫の視線が他の人間に分散されてしまうことに一抹の不服というかなんというかがあったりして。
オレは今、非常に悩んでいた。
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