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雪虫5 3

 雪虫はΩを誘拐している奴らに目をつけられていて、以前も誘拐されたことがあった。  だから安全を考えるならここから出ることはできなくて……そんな雪虫の世界をオレが制限してしまうことは、いいことじゃないってわかっている。  わかっていても心が追い付かないから本当に困る。  雪虫が本を見て目を輝かせているのを知っているから余計に、オレは雪虫が望む世界を見せてやらなくちゃって思うのに……閉じ込めてオレだけを見てて欲しい。    大事にしたいし尊重したい、でもオレは自分の欲望を押さえつけるのに必死で……  他の人間のフェロモンの残り香に嫉妬して腹を立ててしまった。 「……ごめん」 「? 雪虫もごめんね」  オレが何に怒ったのか、きっとよくわかってなかったんだと思うんだけど、それでもオレの謝罪を受け入れて自分も謝ってくれる。  膝の上の頼りない重さを抱き締めて、自分の気持ちの持って行き場所がどこかに見つかればいいのに とぼんやりと思う。  すっかり食堂の仕事が板についたみなわ……じゃなかった、若葉を横目で見ながら、コツコツとスプーンの先で食べかけのカレーの皿をつつく。   「なんや、行儀悪いで?」  傍にきた若葉に声をかけられて、仕方なくそろりと視線を上げる。  いつも通りに見えるけれど、鼻が利くオレからしたらなんというか……すっきりして見えた。  自分の腹から人間の……αの歯が出て来たことに関して、若葉は深く思い悩んでいる様子はない。むしろどこか憑き物が落ちたような雰囲気があって、体の中に埋め込まれていたアレが若葉を狂わせていたんだろう と確信を持たせる。  自分の歯が抜かれるってことを考えるだけでもぞっとするのに、それを他人の体に埋め込んでどうしようというのか……?  瀬能は推測するしかできないといっていたけれど、まともな思考じゃないってことだけは確かだ。 「味、変やったか?」 「あ、うぅん、うまいよ」  オレの食が進んでいないからか、若葉は不安そうに瞳を揺らして……  別に放っておけばいいのに、つい慌てて言った。 「久しぶりにカレー食ったら、なんか……濃くて……」  できるだけ雪虫に寄り添いたいから、可能な限り雪虫と同じものを食べているけれど、好き嫌いも多ければ食べてはいけないものも多い雪虫用の食事はオレには少し物足りない。  だからって味が濃くてスパイシーなものをこっそり食べたとしても、薄味に慣れたのか口に合わなくなってきてしまっていた。  瀬能に相談したら、薄味になれるのはいいことだよーと適当な返事を返されて。体にいいって理解はできるけれど、オレはまだまだ肉とかをがっつきたいお年頃なんだ。

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