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雪虫5 4
「そうなんか? やったら、なんか……あっさりしたカレーでも考えよか」
「いや、いいよ」
それなら自分で作るし、どちらにしても刺激の強いカレーは雪虫が食べられないものだから、わざわざ若葉の手を煩わせることはない。
さっくりと断ったオレに若葉はちょっとショックを受けたような顔をして……何か言いたげだ。
Ω達を誘拐しているブギーマンと関係のあった若葉の命を繋ぎとめるために、オレは自分を若葉の息子だって名乗った。
長年、子供を探していた若葉はそれを信じていて、オレとは父と子として接したいようで……
「あー……その、自分で考えてみたいから」
慌てて続けた言葉に、若葉はちょっとほっとしたようだった。
正直なところ、オレと若葉の血が繋がっているかどうかはわからないままで、ブギーマンがオレが息子だと言ったから若葉はそれを信じているって状態でしかない。
オレと若葉に似たところがあるかどうかはなんとも言えなかったけれど、親子であると思わせることで人の命が助かるのなら、そう思わせとけばいいかな と考えている。
一番最悪なのはここを出て行ってブギーマンか、もしくは大神に消されてしまう場合だ。
顔見知りが死ぬかもしれないのだから、放っておくわけにはいかない。
まぁだからって、突然親のふりをされても困るんだけど。
オレの中で親というのは、金のために子供の精子を売りに出すような人間だからだ。
「そ、そか。食べたいもんあったら言うんやで?」
「うん、その時は、言うから」
ぎくしゃくと受け答えすると会話が途切れる。
その間が、本当の親子じゃないから気まずいのか、それとも会話が弾むほど親しくないから気まずいのかわからず、とりあえずカレーを口に運ぶことでごまかす。
「そや! さっぱりしたデザートあるねん! ちょっと待っててな」
「いや、いらな 」
この後のことを考えて遠慮しようと思ったのに、オレが返事をする前に若葉はパタパタとカウンターの向こうに行ってしまって……溜息を吐いていると、目の端に揺れる長い髪が映る。
黒い真っ直ぐな髪は手入れが面倒そうだな と思うと同時に、雪虫の髪があれくらい長くても可愛くていいんじゃないかなって思わせる。
「 ────あの、若葉さん。今お手隙ですか?」
業務用の冷蔵庫を漁っていた若葉に声をかけたうたは、好みのいつもと同じレースの多い服を着ていた。
手には服と同じ色のリボンが握り締められていて、櫛も揃っているようだった。
「? うたやん、どしたん?」
冷蔵庫の扉からひょっこりと頭だけを出してする返事は気さくで、ここで暮らしている者同士で交流があるんだってオレに教える。
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