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雪虫5 8
「え……じゃあどうするんだよ」
「~~~~っ、また、新作が入ったら連れてきて!」
えー……と声を上げたかったのを飲み込んだ。
ただの事故とはいえうたの服を破ってしまったのはオレだし、服以外に趣味らしい趣味もないって言っていたから他の物で弁償することもできなさそうだし……
でも、正直面倒くさくて。
最初に手に取っていた赤いのでも紫のでも、なんでもいいじゃないか!
普段、オレがいない間は雪虫の相手もしてくれているし、その感謝もあるからできるだけうたの意思に沿いたいって思うけど、オレの最優先事項は雪虫と一緒にいる時間だ。
「 っ、だって 」
飲み込むようにして漏らした言葉は曖昧過ぎて聞き取れない。
でもどちらにせよ、うたの気に入るものがないのは確かだった。
「じゃあまた一緒に来るから、それでいいだろ?」
「……ぅん」
不承不承な返事だったけれどそれで堪えてもらうしかない。
ちょっとふくれっ面をした横顔を見て後味の悪いものを感じたけれど、うたが何で不機嫌になったのかわからないんだからこれ以上何もしようがなかった。
並べていた服を店員さんに返しながら、ウサギのリボンだけはちゃんと買っておく。
「じゃあ今日はこ「ケーキ! ケーキ買いに行かない?」
これで解散しよう の声を遮られて、今度はオレが顔をしかめる番だった。
「オレは本屋に行く」
「じゃあ、私も一緒に行くからその後でケーキ屋に行くのはどうかな? お土産買ってくるって言ったし!」
一気にそこまで言われてしまい、出がけに若葉に対してそんなことを言ったなって肩を竦める。
別に相手もオレ達に土産を買ってきてもらおうとは思っていないだろうし、わざわざそこまでぞろぞろと移動することもないだろう。
「じゃあ、二手に分かれて 」
「そうじゃっ なくてっ……」
うたは周りも考えずに力を込めていうと、人の流れを遮るように立ち止まってしまった。
邪魔になるほどではなかったけれど、ここで流れが滞ってしまっているから、オレはうたの肩を押して通路の端へと促す。
「しずるは……ずっと働き通しだし、息が詰まらないのかなって思うから だから、もう少し、いろいろなところ行ってみない? お茶とかしても 一緒に息抜き、とか」
「オレは……」
息が詰まるというか、やっぱり一息つきたくなるのは確かだ。
食堂でカレーを食べていたように、雪虫中心の生活をしていたらどうしてもままならないことってのが多くて、一般人の自由な生活を知っている身としては、雪虫の生活における縛りや研究所の規則の縛り、大神や瀬能から科せられた縛りなんかもあって窮屈だった。
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