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雪虫5 11
「それ、旅行で合ってる?」
「たぶん?」
きょときょとっとお互いに顔を見合わせながら首を傾げる。
言われて気づいたのか、セキもちょっと自信がなさそうだ。
「まぁでも楽しめたんだろ?」
「うん! 大神さんとねぇりょ ────っ⁉」
はしゃいで身振り手振りが大きくなるセキの背中がとん と人にぶつかる。
通りの人通りは少なくて油断していたのもあったけれど、話しに夢中になって大騒ぎしてしまったから非はオレ達の方だ。
「あっ! すみま 」
セキが慌てて頭を下げようとしてそれができずにカクカクと壊れた玩具のように変な動きになる。
うまく頭を下げることができなかった理由は、ぶつかった相手が腕を掴んでいるからで……オレは慌てて二人の間に飛び込んで引き離そうとした。
「すみません! 話に夢中になってて、謝るんでこいつの手をはな 」
言葉を続けようとしてできなかった。
ぶつかった相手がセキの腕をひねり上げるようにして力を込めらからだ。
意図しない方向に腕を不自然に曲げられて……セキが小さな悲鳴を上げた。
「あ、の 」
相手を見上げて睨み返して気づいた。
この男は一般人じゃない。
大神と同じ と言ってしまうと乱暴な感じだったが、纏う雰囲気はそっち側だ。
「謝罪はします、だから離してください」
はっきりと言い返して睨み上げると、柄の悪い男はちょっとだけ意外そうな顔をする。
体格で全然負けているオレはすごまれたら何も言えないだろうって思われていたのかもしれない。でも、大神を見て水谷に鍛えられて……正直、目の前の男は小物にしか感じなかった。
息まいて無駄に筋肉がついているけれどそれだけで、大神のような威圧感もなければ水谷に対するような恐怖心も湧かない。
「 ……しずる」
血の気が引いたために青い顔のセキが弱弱しく名前を呼ぶ。
少し前のオレならとりあえず人を呼んだかもしれないけれど、そうせずにオレは一歩踏み出した。
オレより大きな男の懐へずい と入り込むと、オレを侮っていたからなのか男がはっと驚いた顔を見せて一瞬隙ができる。
そのわずかな間を逃さずにセキを捕まえている男の腕を逆にひねり上げた。
盛大な呻き声と共に男が仰け反るけれどそれを許さずに仁王立ちする。
「ぃ、いっいたたたっ」
「あんた、何者だ?」
低く尋ねた声に、男の体が跳ねたのを見逃しはしなかった。
ここは「つかたる市」でαもΩも多いし、βだって多い。現にこの男だってβだなって臭いがしている。
大神のフェロモンがべったりとつけられ、近寄るオスどもを牽制するようなマーキングをされたセキに、そんな人間がぶつかるはずはなかったし、フェロモンが少しでもわかるならぶつかったとしても土下座で謝りたくなるはずだ。
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