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雪虫5 12

 だから、この男は目的があってセキに近づいたに違いなかった。  この男は悪意ある目的があって、ここにいる。  そうはっきりとした場所に考えが辿り着いた瞬間だった。 「しずるっ!」  背後から重い一撃を食らってチカリと目の前に星が散る。  オレが掴み上げた男は痛がって動いてはいなかったから、仲間がいたってことだけれど……振り向こうとしたオレに再び硬い棒のようなものが振り下ろされて、オレは意識を失ってしまった。  硬い床に放り出されて、無防備だった頭がガツンと跳ねる。  数少ない取り柄の記憶力がこれで低下したら恨んでやる と胸中で毒づきながらそろりと視線を上げた。  土間だとわかったのは立派な上がり框が見えて、その先に煌めくような飴色の廊下が広がっていたからだった。  玄関の大きさだけでもオレの住んでいるアパートの広さに近いって思わせるそこは、和風の雰囲気のある格式の高そうな場所だ。  こんなところに縁のないオレは床に転がされてますます場違いになってしまっていて、青い顔のまま一緒に連れてこられたセキを見上げた。  こぢんまりとしたΩらしい華やかな顔に、似つかわしくない殴りつけられた痕。  オレが殴られて気絶している間に抵抗したセキも手を上げられていて…… 「ごめ  セキ、守れなくて」 「 っ、しずる! こっちは大丈夫……しずるの方が……血、出てて…………」  いつもすっとぼけるような態度が多いのに、今のセキはまるで借りて来た猫のようにおとなしくて真剣だ。 「オレも大丈夫。これくらい、水谷さんに鍛えられてるから」  基本αは頑丈だ。  ましてやオレは普段から殴られ……じゃなかった、鍛えられてるからこれくらいはなんてことない。  でも大神にぐるんぐるんに守られているセキにとってはとんでもない出来事のはずだ。大丈夫なんて言ってるけれど、きっと強がりなんだと思う。 「  やっ! なに⁉ 引っ張るなよ!」 「セキ!」  力任せに引っ張られて、セキの体が飴色の廊下に倒れ込むが男はそんなことに構ってられないとばかりに更に力を込める。  男から比べると小さなセキは抵抗らしい抵抗もできないまま、ずるずると廊下の上を引きずられていく。 「ぁっ  」  もがくようにこちらに伸ばされた手に駆け寄ろうとするも、オレ自身も押さえつけられているから手が空を切ってしまう。  掴み取れなかった手が、一瞬息が詰まりそうなほどショックで…… 「放せ!」  食いしばりながら渾身の力で腕を振り払い、隙を見つけてオレを押さえつけていた男のみぞおちに蹴りを放つ。

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