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雪虫5 15

「や、やめ  」  拒絶の意思をはっきりと示しながらもがくセキの服の中に、男の手が入り込む。  薄いシャツが乱暴にたくし上げられて……平らな胸に残された大神の痕があらわになると、なぜだかその広間にいるおっさん連中から潜めた笑いが起こる。  それは、けして好意的な笑みじゃない。  けれどそれにも、大神は反応らしい反応はみせなかった。   「ちょ なに  やめて って   」 「おっさんっ! 何やってんだ! 止めろよ!」  赤い色の混じった唾を飛ばしながら叫んでも、一瞥されただけだ。  そうこうしている間にも男の手が無遠慮にセキの体を撫でまわしている。懸命に身を捩っているけれど、細い手首をしっかり掴まれてしまっているせいで抵抗らしい抵抗もできていない。 「や、やっ! ちょ、さ、わ、っっ! 触んなっ!」 「この通り、まだ礼儀作法も教え込んでいない野猿です、親父にはもっと良いオメガや女をご用意してあります」 「自分の番を差し出すのはさすがのお前も気が引けるか?」  からかうように……きっと大神の父親だろう人物が問いかける。  似たような顔立ちだというのに表情が大神よりも豊かだからか、ひどく老獪な雰囲気だった。 「ベータに番はできません」  目の前であれほど執着していたセキが下卑た視線に晒されているというのに、大神の声は飽く迄も平坦だ。 「お前のものじゃあないのなら、そのオメガは皆のものだな? 真田、そのオメガをこっちに連れて来い」 「…………」  大神はわずかにこめかみを動かしたがそれだけで…… 「────っおっさんっ! いつも鬱陶しいくらいにセキにべたべたしてるし、偉そうなこと言ってるクセになんで一言も言い返さ   っ」  もが と押さえつけられた口の中で言葉がごちゃ混ぜになる。  叫びたいのに声が行き場を失って、わんわんと頭蓋骨の中で響き渡った。 「ベラベラと喋らせ過ぎだ」 「す、すみませんっ! すぐに片づけてきます」  再びしたたかに殴りつけられて……さすがにくらりと視界が回る。  うまい殴り方を知らない拳はがむしゃらにただただ振り下ろされている分、どこを殴られるかわからなくて防ぎようがない。  敷居になんとかひっかけていた指先も踏みつけられて、あっと思った時には庭へと放り出されていた。  そこにオレ達を誘拐した男達がやってきて、ためらいもなく棒を振り上げてくる。  避けようとしてなんとか転がるも殴られ過ぎたのか視界が回って、そのままつんのめるようにして倒れ込んだ。  口の中の血の味とうまく動かない体と……大神の手で閉じられていく障子の向こうでどこの誰ともわからないおっさんに口元を舐められて泣き出しそうな顔をしたセキが見えた。

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