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雪虫5 16
体中がぞっと凍りつく。
いや、凍りつくというよりは熱く焼けた鉄でも押し当てられたような感覚だった。
セキは……まぁ、友達だ。
αとΩだったけれど、オレとの間にバース性を挟むことがないってわかっているからこその友達だ。
お互いに雪虫と大神がいるからか、それとも気が合うからなのかは考えたこともなかったけれど、そこは意識しないでもつるめる仲だ。
なのに、今唐突にセキがΩ性で周りから性的略取の対象にされているんだって理解させられて、αの庇護欲なんていう本能的な部分がぐつりと煮え上がる気がした。
「そ いつに、セキに触るなっ!」
怒鳴り上げたところに角材が振り下ろされて、ごつ と鈍い音がする。
振り抜かれた木の棒がしなりに耐えきれずに折れ、鋭い破片を飛ばしながら空中に舞う。
踏みつけられて、爪の間から血が滲んで痺れた指でそれを掴み、一番傍にいた男の足に向かって振り下ろす。
「 ぅ、あああああっ!」
先端が鋭いといってもへし折った木材の破片が、こんなにあっさりと人の足に突き刺さるなんて思わなかった。
大神ほどの膂力があれば話は変わったのかもしれないけれど、オレの筋力でそんなことができるなんて……
「っ、な、なんだ、こいつ 」
太腿を刺されて転げ回る男を後目にふらりともう一人の男へと近づく。
柄の悪い男だ。
きっと、雪虫と出会う前のオレなら道端で出会っても目を逸らしていただろう。そんなチンピラに毛が生えたような男に向かって重心を動かした。
ぼんやりと出されたままだった前足を蹴り飛ばし、崩れた上半身に向けて肘打ちを繰り出す。
下から抉るように伝わる衝撃に、男の肺から押し出された空気が変な音を立てた。
振り上げられていた角材が男の手から落ちてくるのを掬い取って、そのまま後頭部へと叩き込む。
なんだか潰されたカエルのような声を上げて地面に沈んだ男を一瞥してから、広い庭を駆け出す。
「 っ」
脇腹とか、力を込めて棒を握った手とかが軋むような痛みを訴えるのを無視して、異変を察知してオレに方にかけてくるいかつい男共を殴りつける。
びりびりと伝わってくる鈍い感触と自然と跳ね上がる息に押されて、大神達がいた部屋への廊下を突き進んでいく。
その頃にはもう、オレに襲い掛かってこようって奴はおらず、遠巻きに奇妙な視線を向けてくるだけになった。
耳を打つ雨音に雨が降っているのかと思ったけれど、ふと見ると木目が見えていた棒が真っ赤に染まってそこから滴っているものが音を立てているようだった。
けれど、それを見ても心は動かない。
ああ、そうか 程度にしか感じない脳味噌は、まるで水でも詰められたかのようにグラグラとしている。
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