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雪虫5 17

 頭の中が揺れるに従って体も揺れるけれど、目の前の人間を叩きのめすのに不都合はなかった。  一撃……二撃で床に沈んだ体を乗り越えて、大神が閉めた障子に手をかける。 「 ────あ  ははは」 「きゃあ! んふ ふふふ!」  甲高い女の声と、低い男の声と……  障子を開けるために手を伸ばしたのに、力加減を間違えたのかシミ一つない障子紙に指を突っ込んでしまった。  その穴の周りにじわりと赤いものが広がるから、そこで初めて角材を持っていない手も真っ赤だってことに気づけた。  穴を押し広げるようにしながら障子を開くと、一層大きな笑い声がオレを押し返そうとする。  何人かの女と、何人かのΩと……先ほどの顔ぶれにプラスしてそいつらが座敷の中をにぎわしていた。  その向こうで半裸に剥かれてうずくまっている人影がいて…… 「  ──── 黙れ」  腹の底から出した一言は、座敷の騒々しさの前に消えるだけだと思っていたのに、唐突に世界の音が掻き消える。 「お前ら、そいつになにした」  ヂリヂリと脳味噌が焼けこげそうな痛みがする。 「   、   、  」 「  、   」 「────、  、   !」  膳の向こうにいた男共が口をパクパクと動かしていたが声が聞こえない。  殴られて鼓膜でも破れてしまったのかもしれなかったが、廊下を駆けてくる足音だけは聞こえるからそういうわけじゃないっぽい。  一瞬だけ考えを巡らせて、黙れと言ったのは自分自身だったんだって思い出した。 「何をしたか、答えろ」  腹に込めた力と共に問うと、はっと息を吐く気配がして全員がどっとその場に崩れ落ちる。  何をやっているのか知らないけれど、こちらが尋ねているのだから答えるのが礼儀だろう? 「し しず、  」  うずくまるしか体を隠せないために、セキの体はいつもより小さく見えた。  その体には押さえつけられたらしい赤い手の痕と、人権なんて考えずに触り、舐められ、辱められたフェロモンの痕がこびりついている。  目にしなくとも、オレにはわかる。 「ごめ  見ないで、おねがい  」  色のなくなった顔は真っ白だったのに、セキはそれをなんとか動かしてへたくそな笑顔を見せようとした。 「帰ろう」  伸ばした手が赤くて、しまったとは思ったけれど拭くための物がない。  服で拭いてもよかったけれど、こちらは血と泥で目も当てられない状態だ。  オレの伸ばした手を見て…… 「ごめん……しずるだけ帰って   」  自分自身を抱き締めるセキの声は震えていて、本当はここからすぐにでも逃げ出したいんだってオレに教える。 「そんなこと、できるわけないだろ!」    人間の尊厳を取り去ろうとしているこいつらの間に、セキを置いては帰れない。  

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