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雪虫5 20

「お祝い? を、続けましょう」  自分の言葉の一言一句が相手にどう取られるか……考えなければならないのに思考を放り出した口調でセキは言った。 「……ぉ、そうか。情人の一大事に身を呈することの出来る心意気。さすがお前のお気に入りだなぁ? 慧」  名前を呼ばれて、ぴくりと大神の額が動く。 「お前のが出入りしたならずいぶんと緩そうだが? どうだ? 具合は」  酔ってはいないだろうがあえて大げさな動きをとるせいでぐらんぐらんと動く体は狂人のようだ。  いや、ようだ ではなくそうなのかもしれない、目の前に血まみれの人間が立っていてなお、その態度がとれる思考につい鼻白みそうになる。 「──── よい具合です」  返された言葉に、場の空気が嘲笑を含んだ。  さっと辺りを睨みつけると消えてしまうが、それでも嘲笑ったのは違いなかった。 「はは だ、そうな」 「え……え……オレ、酌を   わっ! ゃ、や! やだ!」  無遠慮に尻から更にその奥に指を滑らせるようにして触れると、大神の父は厭らしく笑う。 「ああ、随分とぐずぐずで柔らかい。しっかり躾けたようだな、あっさりと指「やめろっ!」  大神の父の言葉を遮るように叫んだ時、開け放たれた障子からのそりと一人の男が入ってきた。  白髪交じりの頭髪に胡散臭そうなタレ目顔……それが身分を証明するんだと言いたげに白衣を着た瀬能だ。   「やぁ大神、出所おめでとう」    状況をみない呑気なセリフに、座敷にいる連中の視線がオレをすり抜けて瀬能の方に行った気配がした。  けれどたった一つ、目の前の大神だけはオレをまっすぐに見ていて…… 「失せろ」 「いやだ。セキにやめるように言え。こんなことをさせるためにずっと傍に置いてたんじゃないだろ⁉ セキはあんたが大好きで、あんたの言うことならなんだってしようとするんだ。セキのその気持ちをこんなことに使うな!」 「お前が関係することじゃあない」 「んだとっ   ────っ」  角材を振り上げようとした瞬間、大神の手がその先端を捉える。  純粋な膂力比べになったらオレじゃ勝負にもならないのは明らかで、棒の先端はミシミシと不安になる音を立てながらもびくともしない。 「  っ! オメガを守れよ! オメガは守るもんだろ⁉」  大神と意味のない力比べに押し返されそうになって叫んだ。 「あんただって、オレと同じあ  ────」  「αだろう⁉」って叫びそこなって、間抜けな声を上げながら畳の上へと膝を突く。 「? ? え、なに……」  「ちょっと落ち着きなよ。皆見てるよ?」    そう言うと、オレの膝を蹴り……いや、突くように押した瀬能は呑気そうにはは と笑う。  関節を上手い具合に押されてあっさりと倒されたんだと思うと、かっと頭に血が上った。  

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