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雪虫5 22
「離してください! オレはセキを連れ ────っ!」
言葉が途切れたのは大神の拳が眼前に迫ったからで、そのついでにオレの意識もそこでぷつりと切れてしまった。
息ができない と思うと同時に体が自然と暴れ出す。
空気を求めて口は勝手に開くし体はエビのように勝手に跳ねた。
「……! っ、 ……!」
喉の奥の塞がれて言葉が出ず、誰かが傍にいることはわかったからがむしゃらに手を振り回すしかできない。
「しずる君、ちょーっと落ち着いて」
大きな瀬能の声が聞こえて、喉から異物感がなくなるとやっとそこで「あ゛」と声が出た。
「ぼくのことわかる?」
「…………」
クソ医者 と答えそうになったのを飲み込んで、「瀬能先生です」と痛む喉で返す。
「ああ、うん、正解正解。具合はどう?」
「ぐ、あい……ですか……?」
尋ねられて暑いと答えようとしたけれど、そうするうちにじわじわとむず痒いような痛みが肌を刺し始める。
皮膚がひりつくような痛みに呻き声を出すと、「痛いよねぇ」と呑気な瀬能の言葉が耳に届く。
「 っ、い、これっ……」
瀬能が傍らで小さな機械を両手で持って親指で操作すると、ピ ピ と小さくて甲高い機械音が響いた。
「あれだけ殴られて、大暴れして、これで済むんだから本当にアルファって丈夫だよねぇ」
「じょう……? っ、せ、んせぇ……、体中、いた 痛い」
途切れ途切れに懇願するように言った言葉に、瀬能は盛大に顔をしかめて返す。
「そりゃそうだって、全身包帯まみれだよ?」
「……っ」
「覚えてない? まぁ、ぼくは覚えてるからね、ちゃんと」
その言い回しの含みに、少しずつだけれど混乱していた頭の中が落ち着いてくる。
唐突にセキが誘拐されて、
怪我をした大神がいて、
セキが……
「セキっ! 先生っ! セキがっ!」
「落ち着くんだ」
「落ち着けるわけないです! おっさんは役に立たないんだからオレが助けなきゃっ!」
病院のベッドがオレの動きに耐えられずにギシギシと細かい悲鳴を上げる。
「先生だって見たでしょう! 大神の父親がセキをどう扱ってたか っ」
「だからって、もうすべて遅いよ」
トントン と窓を示されて、そこに赤い光が滲んで……
夕日? いや、朝日? けれどそのどっちだとしても、オレが意識を失ったのは夕日が沈んだ直後だったはずだから、どれほど時間が経過しているのかは……考えるまでもなかった。
「……っ」
痛みだけで出したのではない呻き声に、何かを書きつけていた瀬能の手が止まる。
どうして瀬能は、あの大神の父親と気安くやり取りのできる立場でありながらセキを救ってくれなかったのか?
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