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雪虫5 24

「あいつらの中にアルファがいないからって高をくくってんのか⁉」 「へぇ、しずる君は、あの状態であそこにいた全員のバース性までわかったんだ」  だから、どうした!  じくじくと全身を襲ってくる痛みに神経を逆なでされて、瀬能の呑気な声音に素直に返事ができる状態じゃなかった。 「当たり前だ! あそこにいた奴らは全員オレより『下』だった!」  飛び上がるように叫ぶとベッドが盛大に軋む音が部屋に響く。  大声を出したからか喉が痛んだけれど、そんなことはどうでもよかった。  痛みと共に感じる熱が思考を苛む。 「あそこにはオレより強い奴はいなかった! すべて『下』だ!」 「それは、何を以って?」 「なに  を   」  言葉がつっかえて、思わず激しく咳き込んだ。  咳を出さなければならないのに、出したら出したで更に喉のいがらっぽさが増していき……到底会話になんかなりはしない状態だった。 「み ず 」 「ああ、ごめんね。もうちょっと我慢してね」 「っ、 ごほっ、ゃ、でも  っ」  発作のように咳を繰り返すオレの唇を、瀬能は濡らしたガーゼでそっと拭いてくれる。  後から思うと、全身麻酔をしていた人間にいきなり水を飲ませることなんてできないから正しいことだったんだろうけど、その時のオレは瀬能への殺意しか感じなかった。  オレのフェロモンのサンプルを採って興奮冷めやらぬ瀬能は、今にも華麗なターンを決めるんじゃないかって足取りで病室を出て行ってしまう。 「あ、君のその全身の疼痛、きっとね、フェロモン過剰滲出による汗腺の筋肉痛みたいなもんだよ!」  一端扉の向こうに姿を消した瀬能は、ひょっこりと顔を覗かせてそれだけを言ってまた消えてしまった。  瀬能から様々なうんちく……じゃなくて講義を聞いていたけれど、フェロモンの過剰滲出なんて聞いたこともない。ただ、日本語の便利なところで、漢字を当てはめることさえできたら知らない言葉の意味が分かる場合がある。  要は、オレがフェロモンを出し過ぎたってことだ。  でも、正直、あの時のオレはフェロモンを出していたか? まぁほっといても漏れ出す場合もあるからないとは言い切れなかったけれど……  それでも、βと無性ばかりのあそこでフェロモンなんて出したところで大きな効果はないんだから、出す必要性を感じない。  冷静じゃなかったから、そんなことをしてしまったんだろうか?  冷静か、そうでないかと問われたら、冷静だったけれど頭に血が登ってはいた が、正しい状況だったと思う。  オレは冷静にオレの邪魔する奴らを薙ぎ払って行ったし、うるさい奴らを黙らせた。 「……あれ? オレ、全然冷静じゃないな」  自分の思考回路が怖くなって、振れない頭を振って何も考えないようにする。    

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