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雪虫5 25
なんでそんなちぐはぐな考えができたのか、自分自身でもよくわからなかった。
まるで、偉そうなα至上主義になってしまったような気がして、この体の痛みはそんな自分を戒めるための物だったんじゃ……まで思う。
「 ────しずる」
小さなノックと共に名前が呼ばれて、思わず「はい」と言いそうになったのを飲み込む。
ここは研究所の一角にある病院で、その出入りは厳重で安易に見舞いなんてできないような場所だ。だから、そんなところに来る人なんて……
痛む体に鞭打ちながらとにかく武器になりそうなものを探して視線を巡らせる。
けれど、計器はあれどそれ以外は点滴用の支柱くらいで……でもないよりはましだ! と、いつでも殴れるようにそれを手元に引き寄せた。
「寝てるん?」
ちょっと人をからかうような関西弁に、冷たい支柱を掴んだ手をそろりと放す。
「 っ、ぅ。起き、てる」
急に動いたせいで体中から悲鳴があがっているのを掻い潜り、なんとか返事をした。
話し方に声に……オレが知っている中でそれらを操るのは一人しかいない。
「何か、用 ?」
オレの返事にきょとんとした若葉が、手に花を抱えているのを見て見舞いにきたんだってわかる。ここに入ろうと思うと荷物チェックやらいろいろあって大変なのに……
「あんたが考えてる通り、お見舞いやで! それと 」
若葉がそう言いながら後ろに視線を遣るから、オレはその行動の意味を知ることとなった。
レースがたっぷりつけられたスカートが翻る、腰よりも長いまっすぐで綺麗な黒髪、それと……オレをじろりと睨む両目。
うただ。
「ほら」
若葉に背中を押されて、よろけるようにうたが病室に入ってくる。
街中で言い合うように……いや、泣き叫ばれて別れたのが最後だったから、せっかく見舞いに来てくれたというのに気まずい思いの方が先に立った。
「あ のね 」
「……見舞い、ありがと」
「あ、うん、じゃなくて、……なんでこんなことになってるの!?」
問いかけてくるうたの声は震えて引き延ばされて今にも千切れてしまいそうなほどか細い。
オレの姿を見て明らかに動揺しているんだってわかる様子に、若葉にちらりと視線を遣った。
若葉はオレの視線を受けてコクコクと頷くが……何言いたいのかさっぱりわからない。そんな視線だけで以心伝心できるほど、オレ達の中は深まってないってことを忘れているようだ。
「あの日……私が変なコト言ったから⁉ それでしずる、こんなことになっちゃってるの⁉」
「変なコト……?」
オレはしっかりと覚えているあの日の会話を思い出して……熱で赤い顔を更に赤くする羽目になった。
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