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雪虫5 26

 『私を番にもできないくせに!』  改めて考えるとあまりにも露骨な言葉過ぎて……気まずい思いをしながら包帯の巻かれた手を見下ろした。  せっかく見舞いに来てくれてたというのに、嫌な気分にさせるのはオレが嫌だ。 「…………」  オレに好意がある……ってか、好きだからこそ出るセリフだよな? 違うかな?  ちらりとうたの方を見ようとするけれど、オレの視線はうたの胸元から上には動かない。顔を見るのが気まずいし、表情を確認するのが怖かった。 「ゃ……それとは、関係ない。全然ない」  正直なところ、この年まで恋愛らしい恋愛をしたことはなかった。  憧れみたいなそんな感じの思いをクラスメイトに抱いたことはあったけどそれくらいで、オレの恋愛経験値は雪虫一人でカンストしてしまっている。  もちろん、オレはそれでいいと思っている。  運命って部分を差し引いても、オレは雪虫にぞっこんだしそれ以外が割り込む余地はない。  でもそれと向けられた気持ちをないがしろにするのは別だとも思う。  人として好きになってもらえるのは有難い話だし、それを相手に告げる勇気を持っているってそれだけで拍手したくなるくらい尊敬するし、凄いことだ。   「だから、気にすんなよ」  とは言いつつも……わだかまるものが胸にある。  うたを傷つけないようにやんわりと断る言葉はないだろうかと、頭をフル回転させて……   「よかったぁ! つい勢いで変なコト言っちゃったから、しずるが責任感じてたらって心配してたの」 「……ん?」 「あの、勢いだから、誤解させたら……悪いなって……ほら、ちょっと情緒が安定しない時って、あるでしょ?」  視線の先のあるうたの指先が、気まずい心を表すようにイジイジと自分の指をこねくり回している。  くるくると空中に円を描いたり忙しなく左右に振ったりされるそれを見て、背中を押されるように顔を上げた。 「だから、ごめんね。変なコト言って」  うたの黒くて長い髪はサラサラで、頭をぺこんと下げるとあっさりと肩から滑り落ちて顔を隠してしまう。だから結局、うたの顔を見ることはできないままオレは視線を戻すしかない。 「あ、や、びっくりした、だけで……てか、情緒云々よりもあんま変なコト言いまわるなよ? 勘違い野郎に付きまとわれることになるぞ」 「そんなの、誰もいないわよ。だから、しずるも忘れてよ?」 「うん? うん」  オレの返事に、うたはほっとしたようだった。  その空気を受けて、病室の中はちょっと息が詰まるような雰囲気になってしまった。  どうしようかと思案していると、オレとうたの話が終わったから若葉がずいっと前に出てくる。

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