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雪虫5 28

「そか……ありがと。……でさ、セキ……」  尋ねないまま終わろうと思わなくもなかった。  セキを救おうとしたあの日からは時間が経ちすぎていたし、未だって体を起こすのがやっとのオレに何ができるのかと言われたら黙るしかなかったから……  でも、セキはやっぱり大事な友人だ。  セキがΩなんだって思い知らされても、バース性抜きに友達でいたい。  もっとも、救えなかったオレにセキの友を名乗る資格があるのかどうなのか。 「セキ? セキはあのヤクザと旅行中でしょ?」  うたはきょとん とした表情で言い、不思議そうに首を傾げた。  華奢な肩から零れ落ちていく黒髪に視線を奪われながら、あの日にセキが帰ってきたのをうた達は知らないんだってわかってほっと胸を撫で下ろす。 「大神さんもこっちには全然顔見せんし、随分のんびりしとるなぁ」 「…………」 「まぁええ、あの人ちょっと働きすぎやさかい」  穏やかに笑う若葉は以前のように大神に恨みを抱いているような様子はなかった。  そう思うとやはりあの異常なまでのブギーマンこと仙内に対する執着は、体内に埋め込まれていた歯が原因だったのかと納得させる。  あんな小さな欠片で、人一人の人生を狂わせることができる。  それは若葉だけじゃなくセキにも言えることで……大神は男達の玩具にするためにセキを傍に置いていたんじゃないと思いたい。けれど、あの状況でその後セキが何事もなく返してもらったよーって顔を見せることは、ない。  絶対にない。 「…………」  碌でもないことに関する勘だけは外れたことがないオレは、未だに痛む皮膚と病院着のあちこちから覗いているギプスを見て溜息を吐くしかできなかった。  結局、一週間の入院だった。  審査が厳しいとかなんとかで、若葉が見舞いに来たのは一度だけだったけれど、それでも動くことすらできなかった身には有難かった。 「まぁ下手に固定しててもねぇ、ヒビには安静が一番だし。気を付けて生活するんだよ」  しっかり治るまで固定してくれるのかと思いきや、瀬能は早々に腕に巻いたカチカチの包帯? を外してそう言った。 「それで、大丈夫なんですか?」 「うん。それにシャーレつけてると、今弱ってます! 弱点ここです! って言って回るようなもんだから、きっとこっちの方がいいよ?」 「いや、弱点なんてそんな……」  そう言いかけて言葉が止まった。  セキが連れていかれた先での出来事があった場合、明らかに弱っていますって姿をしているとそこを集中的に狙われておしまいだろう。  そう思うと、瀬能の言葉もわからなくも……? ない?

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