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雪虫5 34

 手はちっちゃくて、体は華奢で、寒さにも暑さにも陽の光にも弱いのにオレを守ろうとする姿は強いと思わせる。  自分の命もおぼつかないのにそれでもそう見えるのは、オレを好きだと目をきらめかせているからだろう。  嬉しくなって、小さな頭に頬を寄せる。  寄り添える幸せに目の縁に留まっていた涙がポトリと溢れた。  改めて見回してみて、この研究所にαがいることがあまりないことに気がついた。  大神や直江が普通に出入りしているから、αの優性が強い人間でも簡単に入れるんだと思い込んでいたけれど…… 「ここ最近で立ち寄ったアルファは何人かいらっしゃいますけど……」  最近になってちょっと話すようになってきた受付警備のおじさんはそう言うとパソコン画面を覗き込む。  チラチラと周りを確認しているのは、その情報は大っぴらに言っていい話じゃないからだ。  事情があってオレの番がここにいて、毎日健気に通っているって知っているからこそ、教えてもらえたようなもんだ。 「そうですか……ありがとうございます」  ぺこりと頭を下げて踵を返す。  立ち寄るαがいないのに雪虫に臭いが移っている理由がわからない。  もしくはー……よっぽどベッタリとαのフェロモンをつけた人間が傍にいたか?  ここに保護されたΩにαの臭いがついていたのか……  でも、雪虫がそんな保護されたばかりのΩの傍に行くとは思えないし、その必要もない。  人見知りする雪虫がセキのいない状況で人の輪に入っていくのも考えにくい。 「どこでアルファの臭いをつけたんだ?」  オレが間違えた?  あの時、雪虫から感じたフェロモンは全く別のものだったとか? 「あ、フェロモンだけなら置いてあるのか」  瀬能が持ち出してきた瓶を思い出す。  Ωのフェロモンが入れられたものもあったが、αやβのものもあった。 「それに触った……んだろう」  Ωのシェルターも兼ねているここに、誰にも知られずにαが入り込めるとは思わなかった。  どこからともなく、まるでオバケのように部屋に入り込んでいた仙内のケースもあるけれど、そんな人間が大勢いるとは思えない。 「だから、きっと……そう」  そう言い聞かせながら、箒を持って瀬能の部屋への扉に手をかける。  今日は出かけると言っていたから、今の内に細かいところまで掃除をしてしまう予定だ。気づけばどこからともなく資料と称して大量の紙の束やガチャガチャと音の立てる何かが入った段ボールを大量に持ち込んでくるから、瀬能の部屋はとにかく隙間と埃が多かった。  

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