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雪虫5 35
オレの記憶力ならばどこに何を置いても覚えているからって、もっぱら片づけはオレばかり……というか、オレの仕事にいつの間にやらなってしまった。
「……そういえば、どこかで嗅いだことのあるような臭いだった気が……しないでもない」
けれど、雪虫についていたフェロモンに心当たりはなかった。
オレが覚えていないということは出会ったことがないフェロモンのはずなのに だ。
「まぁ後で瀬能先生に相談してみるか」
「独り言が多いね」
隙間から返された言葉に思わず飛び上がった。
手に持っていた箒がガツンと開いた扉に当たって再びしまってしまう。
「そんなに私がいたのにびっくりしたのかな?」
内側から扉が開かれ、男でも見惚れてしまいそうな端整な顔が覗く。
派手ではないけれど目鼻の位置が絶妙でなんとなく好ましく思えてしまう顔立ちのこの人は東条だ。
登録されていない『野良』Ωを探すために一緒に動いたこともあるαだった。
「えっ⁉ ええ⁉ 東条さん⁉」
大神関係での繋がりで、瀬能も加わっているとは言えその人が研究所の瀬能の部屋にいるっていうのは想像もしていなかったし、瀬能の研究に関わっていないのに立ち入っていいはずはなかったから、どっと冷や汗が噴き出してしまう。
「あ、あのっここは瀬能先生の部屋で、研究に関係のないひ と は 」
「ああ、大丈夫だよ、私もここのスポンサーだから」
ひら と目の前で手が振られ、大きな声を上げたオレを制するように人差し指が立てられる。
普通の静かに のポーズなのに格好いい。
格好いい人は指の先まで格好いいんだと、それを目で追いながら思った。
「スポン ……」
「うん、私の会社がね、出資してるからこの研究所の関係者なんだよ」
それならば、大神同様出入りは他のαに比べて簡単にできる……のか?
「そ、そうなんですか」
瀬能からバース性に関する知識等は学んではいたが、この研究所の成り立ちやスポンサー等の勉強以外の話は聞いたことがなかった。
今の学びだけで精いっぱいというのもあったけれど単純に興味のなかった話で……今後はもう少し、そういったことにも気を回さないとだな。
「でも、今日は瀬能先生はいらっしゃらなくて……あ、すみませんっ」
オレと東条の間にあった箒を慌てて背中に隠し、今日の掃除はまた後日だな と計画を立て直す。
「掃除? そうか、しずる君がしてたから、最近部屋がしっかり片付いてたんだな」
東条は部屋の中に視線を動かしながらうんうんと頷いた。
オレがここにきた当初の散らかり方を思い出して、東条がずいぶんと前からここに出入りしていたことがわかってほっと胸を撫で下ろす。
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