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雪虫5 36

「そうなんです。こまめにしておかないといろいろと溢れかえるじゃないですか」  オレのぼやきに東条は小さく苦笑を返す。  その顔が……見上げているから? 逆光だから? いつもの精彩を欠いた陰を見せる。  疲れているのかなって思ったところで、大神と同じようにここに出資している人間ならそれなりの社会的立場のある人間なんだから、忙しいのは当然だろうと気づいた。 「あー……えと、瀬能先生は本日はいらっしゃらないんですが、お茶くらいなら出せます」  ほんの一杯のお茶を飲む間の休憩が大事なのは、勉強に仕事に雪虫の世話にと忙しくなってから痛感していたことだ。  もしからしたらそんな時間はないのかもしれないけれど、目元に疲れを見せる東条を労われるならと思った。 「じゃあ、いただこうかな。少し探して欲しい資料もあるんだけど」 「オレでわかるのなら探しますよ」  疲れというよりも寂しさを滲ませた表情が和らいだのを見てほっと胸を撫で下ろす。  とりあえず部屋に備え付けのポットで湯を沸かして、お茶請けを用意して…… 「保護されたオメガの一覧って見られるかな?」 「え? 保護された……ですか?」  ソファーにゆったりと座った東条はやはり疲れていたのか、背もたれに深く体重を預けて少し苦しそうな表情だ。 「あ、えぇっと、その手の資料は紙にはなくて……」  いつも瀬能がパソコンで管理している。……し、出してはいけない資料だ。   「そんな不審な顔しないでよ」  反射的に身構えてしまったのがバレたのか、東条は頭を少し起こしてまたも苦笑を向ける。  一度ソファーに身を預けたからか、隠そうとしていた疲労が滲み出たように東条はくたびれて見えた。 「保護されたオメガの追跡作業中に、間違って処分しちゃったんだよ」 「処分……」 「紛失じゃないから安心して。他のと一緒にシュレッダーにかけちゃってね」  はは と乾いた笑いを漏らしてから再び東条は頭を背もたれに預ける。 「おかげでいったん戻ってこなきゃならなくなるし、追跡はやり直しだし、瀬能先生には怒られるしで」  肩を竦める姿さえ絵になる。 「まぁ、大事な書類ですから」  基本、瀬能は寛大だ。  わけもなく怒ることも威張り散らすこともない、不機嫌さの八つ当たりもしなかったけれど、資料の取り扱いには敏感だった。  特に保護されてきたΩの情報は。 「だから、その書類を受け取りにきたんだよ」 「どこかに用意してあるんですか?」  もしそうなら、瀬能からそういうふうに指示が入っているはず……でも今日は瀬能からなんの指示もなかった。  

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