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雪虫5 37
オレの体がまだ本調子じゃないからって理由だけど……当分はゆっくりするようにって言われている。
「え? 聞いてない⁉」
ぱち と目を見開いて飛び上がられて、思わずこっちも飛び上がってしまう。
慌てて携帯電話をチェックしてみるも連絡は来ていない。というか、セキから連絡が入っていないと本当に通知すらきていないんだから、オレの生活は寂しすぎるのかもしれなかった。
沈黙したままの携帯電話を握り締めて、
「えっと、あー……確認してみます!」
「すぐに確認ってできるの?」
「え⁉」
少し強い調子で言われて戸惑う。
東条はαらしい雰囲気だったけれど、人を威圧するようなタイプじゃなかったから意外だった。
苛立っている?
焦っている?
保護されたΩの追跡ということは、今まで連絡が取れていたものが突然取れなくなったんだと思う。
それは、ただただ普通の生活を送っていたのにある日突然攫われ、自分の意思ではない力に押さえつけられて……
ぐっと携帯電話を持つ手に力が籠ったのは、セキからのなんてことはない連絡すら入らなくなったことに、胸を掻きむしられそうになったからだ。
「今日は学会にって言っていたので、すぐには無理かもしれませんけど……」
「じゃあすぐには無理なんだね?」
「や、無理かどうかは 」
「手遅れになる」
立ち上がりながら短く硬く告げられた言葉は鋭くて、オレの罪悪感の背中をつつく。
「助手の君ならそのデータを出せるんじゃないのか?」
「 」
一瞬の言葉のつっかえは答えを言ったも同然だった。
瀬能が直接オレにパソコンや、そこに入っている保護されたΩの情報へのアクセス用のパスワード教えたことはなかったけれど、仕事を手伝う上で垣間見た行動をすべて記憶から引っ張り出して記憶を繋ぎ合わせれば……
けれど、その情報は取り扱いには細心の注意が必要なものだ。
「すみませんっ! 瀬能先生に確認をとって 」
「その間に一人のオメガの人生が取り返しのつかいないことになっても?」
「 っ」
ぞわ と肌が総毛立つ。
自分がすくいきれなかったセキの姿が、責め苛むように傷を負った骨の痛みを思い起こさせる。
血の気が引いて、きっと顔色が悪くなったんだと思う。東条は苦し気に顔を歪ませると「すまない」と謝ってくれた。
いつもαらしいどこか余裕のある立ち居振る舞いをしていて、理想の大人の男を絵に描いたような人なだけに萎んだような姿は衝撃だった。
「い、いえっ……」
「子供の君にきつい言葉を使ってしまった」
疲れて見えたのが、隠しきれなかった疲労が滲みだしたものだと痛感して、気まずくなって俯く。
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