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雪虫5 40

 駆け寄る前にわかってしまうほど青い顔をした警備員に、「東条さんは⁉」と怒鳴りながら近寄ると、ふるりと首を振られた。 「そんな方はいらっしゃてません。ただ時宝さまなら先ほど……」  警備員の服装は乱れていて、ここで押し問答か何かがあったことがわかる。  普段は静かな出入り口で騒動があったなんて、そんなの偶然なんかじゃない。  すん と鼻を鳴らして空気中のフェロモンを探してみれば、東条のフェロモンが色濃く残ってる。  警備員相手に威嚇したのか……オレの時のように、動きを止めるためのフェロモンを出したのか……どちらかは定かではなかったけれど、この警備員が言う時宝が東条だってことは間違いがないようだった。 「どっちに行きました⁉」 「  っ。……駐車場の方に」  指さした先にあったのは駐車場をものすごいスピードで飛び出していく黒いセダンだ。  大神の車のようにいかつくはなかったけれど、それでも一般人が乗るには高級車だ と身構えたくなる車だった。 「  っ、足、足がない!」  思わず叫んで辺りを見回す。  時折警備員が乗っているのを見かけた自転車が目に入って、何かを考えるよりも先にそっちへ駆け寄り、自転車の鍵を蹴り飛ばした。  背後でヒィ と声が上がったけれど心の中で謝罪して、オレは一気にペダルを踏み込んだ。  スピードを出している車に自転車が追い付けるなんて信じてはいなかった。  きっと途中で体力がなくなって、スピードが落ちて振り切られておしまいになってしまう未来がはっきりと見えた。  それでも自転車で、少しでも追いすがろうとしたのは東条の様子がおかしかったからだ。  そんな人じゃない。  いつも冷静で知的で、でも時折いたずらっ子のようにイジワルで。  でも、こんな、自分達が保護しているΩ達を危険に晒すような人ではない。 「っ  っ! くそっ!」  オレの体の前に自転車が悲鳴を上げる。  よくよく見てみれば年季が入っていてオレが力強く漕ぐと悲鳴のような音が上がった。今にもバラバラになりそうな不安定な振動がハンドルから伝わってきて…… 「っ  それでも、 っ、オレは  」    放っておけないんだ。  伸ばした手で掴めなかったセキの代わりに。  今ならまだ、掴めるんじゃないかって思える東条を。  何かあったから、こんな暴挙に出たんだ。 「 ────っ」  最初はその振動に気づかなかったけれど、繰り返し鳴らされていたためにそれが携帯電話の着信だって気づくことができた。  手を離して出ることは簡単だったけれど、前のめりになって自転車を漕いでいる今のオレにその余裕はない。

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