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雪虫5 41
東条は周りの車を巻き込まないのが不思議なほどの粗い運転でどんどんと進んでいっていて、ほんの一瞬も気が抜けない状況だ。
ひぃ と喉が音を立てて、ハンドルを握り締めた手がズキズキと痛む。
少し痛みがマシになってきていたのに なんて、他所ごとに意識を向けないと止まってしまいそうで……
「 っ、こっち! こっちだ!」
走って移動しろ っていう水谷の言葉を守って、オレは普段つかたる市を移動する時は徒歩だ。
雪虫へのお土産用に面白いものがないか探したり、木の実や花がないか見て回ったりするから、車が通れないところもよく通る。
海の傍で平野が続くかと思いきや、時折思い出したように山や起伏のある土地だったから、車だと気づきにくいショートカットも多くあって……オレは空気が足りなくなってぐらんぐらんと揺れ始めた脳を叱咤して、東条の進行方向の道がぐるりと迂回する道だってことを思いつく。
「ここっをっ通ったらっ」
道と行ってもきちんと整備されていない。
思い出したように砂利が混ざったコンクリートが流されてなんとか道っぽく仕上げている場所だ。
徒歩ならなんてことはないけれど、自転車で通るような道じゃなかった。……でも、そこを無理矢理押し入っていく。
多少登りでスピードが落ちたとしても、下りになったら自転車の方が断然早かった。
一瞬でも気を抜いたら滑って道の脇に突っ込んでしまいそうな林の中の道を進んで、木々の間に道路を見えた瞬間、そちらに向けて足を蹴り出した。
道から外れたそこは手が入っているとは言い難い坂道だ。
木々が左右から突き出ているし、地面には幾つもの季節を越えた落ち葉が積もっていて……
「────っ!」
あ と思った瞬間にはブレーキが利かなかった。
いや、ブレーキだとか云々の前に自分の下から自転車が跳ね飛んだ。
それと共にオレの体はもっと高く飛んで、腹の底が抜けるような恐怖感に体が浮遊しているんだって脳みそが理解した時には、体は冷や汗を噴き出していた。
悲鳴と、スローモーションに見える視界と、それから水谷に散々教え込まれた受け身がこんな状態で役に立つのか、物が落ちる一瞬でいろんなことを考えることができたと思う。
でもどれもオレを助けてくれなくて、オレはビタン って音と共に道路へと放り出された。
映画で聞くようなもっと鋭い音がすると思っていただけに、オレはその音は何か別のものが立てたんだって思い込んでいた。
「 ────っ 何をやってるんだっ!」
高級車のボンネットに落ちた自転車がカラカラと場違いに軽やかな音を立てる。
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