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雪虫5 44

「あはは……そんなことしたら東条さんが捕まっちゃいます……  よ?」  思わず不自然に言葉が切れたのは、意味ありげに東条が微笑んだからだ。  整った顔立ちが何か含むものがあるのだと隠さずに笑う姿は、体中がズキズキしているのを忘れさせる程度には魅力的だった。 「あ、え、と。きちんと捕まるんです、よね?」  唾がうまく飲み込めなくて途切れがちになる言葉に、東条は何も返事を返さないままで……オレは今更に、研究所に出資できるだけの権力を持つ人間が社会においてどれほどの影響力を持っているのかを考えさせられた。  体中の痛みのせいで、タクシーがわずかに跳ねると呻き声が出る。  東条は最初の一回だけ「病院で下ろそうか?」と尋ねてくれたけれど、それ以降は思わず声を漏らしても何も言わない。  おかげでタクシー内は静まり返ったままで、走行時の規則正しい音が繰り返されるだけだ。 「……どこに向かってるんですか?」 「君はついてくるだけだったよね」 「ぅ、それは……そうなんですけど、ここまで来たんなら行き先くらい教えてくれてもいいじゃないですか」  会話がなくて気まずいってのもあるけれど、何よりも長時間外出になるとは思ってもいなかったから雪虫の食事が心配だった。  たぶん、異常を察知した瀬能がきちんとしてくれているだろうけれど、なんの連絡もないまま長時間離れてしまっているってことが問題だ。  今頃こないオレを待ちわびて泣いてやしないかと思うと、どうしても落ち着かない。 「……」  しん とした空気は、東条が返事をする気がないからで……休憩も取らないままに走り続けるタクシー運転手に向かって、思わずすがるような視線を向けた。 「あの……お客さん、さすがに一度休憩をと思うんですが」 「このまま行ってください」  思わず背筋が伸びるような声にちらりと運転手と目が合って、口調は丁寧だったが東条がそれを変更する気がないし、させない気迫が伝わってくる。 「ホタルさん、の居場所ですか?」 「  ……」  びくりと肩が跳ねたのはそうだと言っているのと同じだった。  東条が見たリストには、保護されて新しい名前で新しい場所で暮らしているΩが乗っている。  虐待やらDVや理由は様々だったけれど……  過去を捨てて新たに生きることを選択せざるを得なかった人に、東条が会いたがる理由は一つしかないだろう。 「番、なんですか?」 「関係のない人間に自分の番の話をされることほど腹立たしいものはないようだ」 「ちょ  っ、そんな言い方ないと思います!」  オレに話をされるのが嫌なら東条の方から説明をすればいいのに!

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