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雪虫5 48

 慌てて追いかけるとなぜかオレは管理人に呼び止められ、不審者を見るような目でここに来た理由を尋ねられてしまう。  オレよりも東条の方が明らかに不審者だろう と視線を遣ると、きちんとスーツを着こなして一糸の乱れもなく身だしなみを整えた東条がエレベーターを待っているところで……  対して、自転車を必死に漕いで、挙句に山道で吹っ飛んで道路を転がったオレは汚れてボロボロの姿だった。  自分でも不審なのはこっちだって自信を持って言える。 「あ、あ、え、えっと! 連れです! あの人のっ!」  指さして言うけれど、いかにも上級国民ですって東条とくたくたのラフな格好のオレとじゃあ雰囲気も違うし年もかなり違う。  友達なんて言えない、親子って年でもなければ兄弟と言い張れるほど顔も似ていなかった。 「だ、だからっあの人の奥さんの連れ子の生き別れたお姉さんのクラスメイトの一人がオレの祖母でっあの人とオレは親族なんです!」  管理人の男は勢いで出たオレの言葉に怯んで目をぱちぱちとさせている。  これならいけるんじゃなかろうかと、大声で「おじさんっ! オレも今行くから待ってよ!」と叫んで駆け寄ろうとした。 「ちょっと待ちなさい! それは他人ってことだろう?」 「あっ」  手を掴まれてその場で足がバタつく。    こういう場面ではこれでごまかせるのが定番なのに!   「なんで? って顔をするんじゃない!」 「あっちょ  っ! おじさんっ! オレを連れて行かなかったら、ここでおじさんがホテルでオレにしたこと大声で言ってやるっ!」  さすがにこの言葉には管理人だけじゃなくて東条もぎょっとした顔をして振り返った。  二人の「は?」という視線を受けたけれど、オレはちょっとほっとしていた。 「私は君に何かした記憶はないんだが?」 「ホテルでオレが落としたルームキー拾ってくれましたよね。それぐらいかなぁ……嘘は言ってないですもんね」  口笛を吹きそうな雰囲気でそう言うと、東条は深い溜息を吐いたがそれ以上は何も言わない。  全部の神経をインジケーターの光に向けているようで、オレはもうそこにいないも同然だった。  ここに来るまでに散々止める言葉を告げたけれど、そのどれも東条には届かなかった。  幾ら瀬能達に知識を詰め込まれても、それだけじゃ何もできないんだと考えている内にエレベーターは目的の階に到着する。  まるで人垣を押し退けるように飛び出す東条を追いかけて……けれど、目的の部屋へ向かう途中で東条は困惑を隠しきれない様子で足を止めてしまった。

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