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雪虫5 50

 か細いそれは今にもかき消えてしまいそうな儚さを感じさせる。  さっと東条の方を見ると、まるで熱いものにでも触れたように、怯えた顔をしてドアノブから手を離してしまっていた。  二人の目の前でゆっくりとドアが閉まって……命綱が切れて奈落に落ちてしまったかのように、赤ん坊の声は聞こえなくなる。  オレは、とにかくぐるぐると回る考えを整理するのに手いっぱいだった。  姿を消した東条の番の家にαの臭いと共に赤ん坊がいる なんて、悪い予感しかしない。  番が姿を隠した先で新しい伴侶を見つけたのだとしたら……? 東条達の仲がどう言うものかわからない今の状態で不用意なことは言えなかった。 「やっぱり、出直し   」 「穂垂!」  勇気を振り絞った声を出し、東条は再びドアを開けて一歩踏み出した。  微かな声はそれに反応するでもなく、ひぃひぃと消え入りそうに続いている。オレは赤んぼうがどういったものか知らない。  兄弟はいないし、交流するような相手に子供はいなくて……でもそんなオレでもこの赤んぼうの泣き声がおかしいのはわかった。  赤ちゃんって、もっと火がついたように泣くものじゃないんだろうか?  中に入っていってしまった東条に倣って中に入ろうかどうしようかしていると、人の視線を感じてはっと顔を上げた。  同じ階の、間に一つドアを挟んだ部屋のドアが微かに開いて、こちらを伺う目が覗いている。 「あっ」  さすがに部屋の前でこれだけ騒げば何事かと思われるのは当然だ。  オレは反射的にぺこりと頭を下げてみせる。  警察に通報してもらえないかとさっきまでは思っていたけれど、いざ警察を呼ばれるかもしれないと思うとついつい保身が前に出てしまう。 「すみません、お尋ねしたいのですが、こちらの部屋の方はお出かけでしょうか?」  できる限り不審者だと思われないように丁寧に尋ねると、住人はちょっと警戒した様子だった。 「オレ、弟なんですけど……兄を探しに来たんです! 男手一つで子供を育てるんだって飛び出していって……でもオレ心配で心配で……やっとここまで来れたんです。兄の行方に心当たりはありませんか⁉︎」 「えっ そ   」  隣人の方へと勢いよくそう言いながら詰め寄ると、更に警戒されたようだったけれどドアを閉められることはなかった。 「オメガ同士、仲の良い兄弟だったんです、でも家が厳しくて兄は……」  う……と泣くようなふりをしながら首をさすると、隣人の目がそこに向かうのがわかった。  オレの項にはどうしてだか雪虫の噛んだ痕がしっかり残っていて、そこだけを見るならオレはオメガに見えただろう。 「ああ……あの人、やっぱりオメガだったんだ」    

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