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雪虫5 51
疑いの目が少し和らいでくれたのでほっと胸を撫で下ろす。
「首に歯型なんて、オメガくらいしかいないもんね」
ちょっと軽んじるような物言いに何も思わなかったわけではなかったけれど、つかたる市以外ではΩは本当に珍しくて……Ωの首筋には歯形があるって知っているだけでも、よく理解している方だと思う。
「はい。番……伴侶がいるオメガにはこうやって印が残るんです」
本当はαであるオレにはつくはずのない歯形だったけれど、隣人の説得には大いに役立ってくれている。
「あ、うん、なんかそんな話、聞いた覚えがあったんだよね。じゃあ、昨日一緒に出掛けた人が旦那さん?」
「え……いえ、兄の伴侶はさっき部屋に入った人です」
「逃げて来たんじゃなかったの?」
「いえ、喧嘩です。子育てですれ違ったままヒートアップしちゃったらしくって、大事になっちゃったみたいで」
適当に言った嘘だったのに、隣人は訝しがりながらもそれに頷いてくれる。
近所の家庭内事情が気になるけれども深く聞けず、けれど今なら! と思っているような表情だった。
「兄は兄で頑固が部分があったから……謝りたいって言うお義兄さんと探し回っていたんです」
「そう……」
人の諍いが沈静化に向かっているからか、隣人はちょっと面白くなさそうな表情だ。
「あの、昨日来てた人ってどんな感じの人だったか覚えてらっしゃいますか?」
「え⁉ えー……」
隣人はちらちらと視線をさまよわせて、言いにくそうに言葉を選んでいる。
そりゃそうだろう、伴侶が来ているのに昨日全然違う男が来ていた なんて、騒動の予感しかしない。
「父かもしれないんです! 父は兄の味方だから……オレ達に知らせずにこっそり会ってたのかも!」
「あー……そんな年に見えなかったんだけど」
「あれ? じゃあいとこにたのんだのかも……」
大げさに困惑してみせると、隣人は三十代くらいの少し髪の長いひげのある男だと教えてくれる。
「あ! いとこです!」
「そう? ……なんかそんな風にみえなかった 「じゃあいとこが説得してくれていると思います! ありがとうございました!」
隣人の言葉を強引に終わらせ、振り切るようにして東条の入って行った部屋へと飛び込んだ。
中はひやりとして人が生活していた空気感じゃなくて、そこにか細い声が途切れながら続いている。
「東条さん!」
声を辿ると言えるほど広くない部屋の奥、ベビーベッドに覆う被さるようにして東条が何かをしている。
動く背中と連動するように赤んぼうの声が強くなったり弱くなったりして……
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