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雪虫5 55

 あまりにもな早業にぽかんとして……東条は赤んぼうを連れて番を追いかけるのを選んだんだって理解した時にはばたんとドアが音を立てた後だった。 「あ……え⁉ ええ⁉」  ここまで食らいついてきたのにこんなあっさりと振り切られるなんて思いもしていなくて、慌てて駆け出す。  本当なら鍵とかいろいろ考えてから出ないといけないんだろうけど、そんなことは言ってはいられない。飛び出した時にはエレベーターは動いてなくて、東条が非常階段の方から出て行ったんだってわかった。 「東条さんっ! 無茶です! 子供を連れてなんてっ!」  非常階段を駆け下りながら、なんて無謀なことをするんだと段を飛ばしながら思う。  あれだけ手際よく子供の面倒を見ることができるんだから、子供のことを大事に思っているはずだ。それなのに抱えたまま階段を駆け下りるなんて…… 「止まってください!」  叫ぶけれども聞こえる足音は遠ざかるばかりで……オレは、とにかく追いかけなきゃと階段を飛び降りる。  東条に教えた情報だけで子供を抱えて番を探すことなんてできるのか?  慌てながらあと少しで一階ってところで、マンション前で黒服に囲まれている。 「は? はぁぁぁ⁉」  とっくに日が沈んでいるからか、黒服達は闇の中から突然現れたように見えた。  きっと、事情を知っていなければ警察案件だったと思う。    子供を抱きかかえたままの東条がさっと反対側に駆け出そうとして、そちらにも黒服がいたためにたたらを踏むようにして立ちすくんでいる。  オレは階段を下りるのがもどかしくて、危ないとは承知で階段から飛び出して……東条と黒服との間に着地する、ちょっと足の裏がアレなことになったけど、根性で涼しい顔をしたまま黒服へと向き直った。  何人かは初めて見る顔だったけれど、一人……二人ほど以前に会ったことがある人がいる。  雪虫がいた家にトラックが突っ込んできた際、その片づけ等に駆り出されていた黒服だ。  ってことは、この人達は瀬能が大神の関係者で間違いないってことだった。  一瞬、番を連れ去った奴らかと思ってひやりとしたけれど、それはオレが考え込みすぎているだけだったみたいだ。   「阿川さんと時宝さまですね」  東条はさまがついているのにオレだけさんなのは腑に落ちなかったけれど、これが社会的立場の違いなんだろうと大人しく飲み込む。 「我々は瀬能先生の指示の下こちらに参りました」 「それはそれは……けれどこちらには何もない。帰って瀬能先生に何もなかったと報告するといい」  硬い東条の声に、男達にさっと緊張が走った。

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