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雪虫5 56
「時宝さま、貴方が研究所で行われたことは幾つもの研究所の規則に反するものです。ましてや試薬を阿川さんに使用されましたね。これらのことについて瀬能先生からしっかりとした説明を求められています」
「私の姿を見て何も思うところがないのかい?」
大勢の黒服に囲まれて、それでも怯む気配すら見せない東条に、黒服達の雰囲気が重苦しくなっていく。
「私は今、子供を抱きかかえている。まさかこんな状態の人間に非道なことをしたりしないだろうね?」
「確約できません」
そう言いながら男達はじりじりと、東条を捕まえるために距離を詰めてくる。
ゆっくりと狭まっていく輪に、東条はさっと視線を巡らせてなんとか抜け道を探そうとしたが……
一般人とは一線を画す黒服の男達がオレ達を逃すわけもなく。
あっさりと黒服の輪に囲まれて観念するしかない。
「瀬能先生がお待ちです」
「学会で当分空けるとおっしゃっていたから、まだ猶予があると思っていたよ」
黒服のリーダーらしき男がふぅと溜息を吐く。
「大神がいないからと、我々が無能になるわけではありません」
「その割には随分とのんびりしていたようだが」
「もっと大袈裟に追いかけた方がよろしかったでしょうか?」
東条はその言葉に対しては意味ありげな笑みを返したけれど、それ以上の言葉は何も言わない。
沈黙したのを従うととったのか、黒服達はいかつい黒い車を滑り込ませると、後部座席を開けて乗るようにと促してきた。
このまま研究所へと戻れば後のことは瀬能がすべてしてくれるだろう。
「あっあの! 保護を受けた人が誘拐されたようなんです! このままその人の捜索に回ってもらえませんか⁉ もちろん、オレ達は研究所に帰ってきちんと っ」
さっと腕をとられて、促しというにはあまりにも強い力で車へと押し込まれる。
「その人はどうなるんですか⁉」
「我々が受けた指示はあなた方の確保です。そちらは含まれておりません」
「えっだって、保護対象が消えたんですよ⁉」
外側から勢いよく扉を閉められて、思わずぎゅっと身を縮めた。
最初にじじぃとばばぁが大神達にボコられたからか、どうしてもこの手の人達を前にするとびくびくしてしまう癖が抜けない。
「男が尋ねてきて共に出て行った。オメガが新しい男を見つけて子供を放り出して遊び惚けてる可能性もあ「穂垂はそんな人間じゃないっ!」
助手席に乗り込んだ男のつっけんどんな言葉を遮り、東条は怒鳴る。
「どんな人間かは知りませんが、オメガに逃げられたアルファの言い分ではね」
つんと顎を反らして言われた言葉に、オレの頭に一瞬で血が上った。
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