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雪虫5 60

「関係はそれだけじゃないだろう?」 「息子は穂垂のことを慕っていました」  一瞬、東条は微かに表情を崩したようにみえたけれど、オレの気のせいだったのかと思うほどすぐに硬い顔に戻る。 「穂垂に不満はなかった」 「なかった はず だろう? どうして君が彼の心を決めつける? 衣食住が足りているから不満がないと? 贅沢ができているから不足がないと? 優性の強いアルファが番だから文句がないと?」  ひくりと息を飲み込みそびれたのか、東条の喉が引き攣った。 「少し傲慢じゃないかな? まるで自分が神かのような気分になっているのでは? 君は彼のすべてを知っているわけではない」 「私は穂垂を理解していた!」 「理解していたら今の事態にはなっていないだろう。傲慢だよ」 「瀬能先生にはお分かりにならないでしょうが、アルファとオメガの間にある特別な絆というのはそんな軽いものではありません。瀬能先生には、わからないでしょうけど」  東条は強調するように同じ言葉を繰り返す。 「バース性を研究してはいるが、その独りよがりな考えは理解したいとは思えないね」 「理解しようとしないから、手放すことになったのでは?」  東条にとん と首元を示されて……瀬能がなんと表現をしていいのかわからないような、苦い顔をして唇を引き結んだ。  瀬能の首に指輪が一つ、チェーンに吊るされているのは知っていた。けれどそれをどうして吊るしているのかは知らなくて……   「今の君と同じように?」  忌々しそうに低く言うと今度は東条が唇を引き結ぶ番だった。 「ともかく、今回のことを受けて君には捜索一切から手を引いてもらう。オメガ保護のためのものを私利私欲で使われてはたまらないからね」 「では連れ去られた穂垂はどうなるんですか⁉」 「それは本当に連れ去られたのかい?」  冷ややかな声音に、東条がはっと肩を揺らした。 「我々はまずオメガの人間関係を調査する」 「そんなことをしている内に穂垂は っ」 「新しいパートナーの可能性もある」  そう言うと瀬能の視線が動いてオレの腕の中の赤んぼうに移る。  大きな声で泣きかけ、あやすと少し落ち着き、そして気を取り直したように再び泣き出す。オレの腕の中で暴れる赤んぼうは瀬能の視線なんて感じていないようだ。 「その場合、子供を置いて行くこともある」 「だから! 穂垂はそんなことをするような人間じゃない!」 「彼はオメガや番ではなく一人の人間なんだよ。アルファに都合のいいように動く人形じゃないんだ、一人の意思を持った人間で、気持ちの揺らぎだってある」

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