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雪虫5 61

「私達は番です!」  そう言った東条を見る瀬能のどこか憐れんだ目に、その発言の根拠が『番だから』だけだということに気づく。  確かに、αのオレからしてみたらそれだけで十分な理由だった。  東条が言ったことがすべてで、きっとこれは番……しかも運命と番ったことのない人間にはわからないことだと確信を持って言える。  人柄がとか性格がとかじゃない、そんなものをすべて押さえつけて理解できてしまうのが、『番だから』だ。  これを言葉にするのは困難だと思う。  感覚やスピリチュアルに近いといってしまえば乱暴だけれど、それに一番近い。  魂で結びつくだのなんだのと表現することもあるが、番同士は確かに繋がっていると感じる。  離れると身を切られるように切なくて、悲しくて、寂しくて……溶けて混ざって一つになれればきっと、世界が滅んでも幸せだと思えるだろう。  ────けれど。 「それだけが世のすべてじゃない」  ばっさりと切り捨てるような瀬能の言葉に、夢から醒めたように目の前がチカチカと瞬いたように感じた。  そう、だ。  幾ら繋がっていると感じても、それでも個々として存在している以上は常に重なってはいられない。  現にオレは雪虫と夜は一緒にいられないし、仕事がある時は傍を離れなくてはならない。  その間に何かがあったとしても、番が何をしていたとしても、傍に居る時以上に事細かに知ることはできなくて……現実に存在する限界というか、壁だと思う。  最近、雪虫の世界が広がって、オレの知らないオレ以外の人間とやり取りをするようになったことにやきもきしてしまうのはそういった部分だ。  精神的には確かに繋がっていると感じるし、番がいるってことで精神安定できている。  でも、精神を物質世界に引きずり出してくることはできない。  現実で何かあった時、精神的なもので対抗しようとしても手も足も出ない。 「ですが  」 「君の立場を慮って不問にしていただけで、緑川くんとの始まりは犯罪だ」 「  っ」 「その後、お互いに番として受け入れたために問題にならなかっただけで、歪な始まりだ。ましてや、一夫一妻制が根本にあるこの国で多数の番を持つ君のことを素直に受け入れられず、悩み続けていたかもしれないだろう」  ぐ と反論が口の中で絡まって奇妙な音を立てている。  東条はそれを噛み殺すように険しい顔をしてから、視線を足元へと移した。  項垂れたその姿は、実質の負け宣言だ。   「緑川くんが何も言わずに姿を消し、保護をこちらに求めて来た。それは本人が行動を起こさないと為されないことだ」  番の関係や事情やそれ以外の様々なこともあるだろうけれど、本人が保護を求めた、それは間違いないのだと瀬能はきっぱりと言う。

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