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雪虫5 64
「じゃあ、どうすれば大人なんですか」
問いかけでない言葉はただの愚痴だった。
瀬能はそんなオレを見て、ふは と小さく吹き出して……まるで小さな子供にするようにニコニコと微笑む。
「どうすれば大人なのか考えてる間じゃない?」
からかうセリフだったけれど、瀬能の目は柔らかに細められたままだった。
小さな体はオレと違って華奢だ。
最近背が伸びすぎてて、このままだと雪虫と並ぶとアンバランスになってしまいそうだし、雪虫が威圧感を覚えたらなって思って、悩みの種になっている。
「また、けが……」
「擦り傷です、本当です、どこも悪くないです」
身長差があるとはいえ、ベッドの上で仁王立ちしている雪虫と床で正座をしているオレとじゃ流石にオレの方が随分と小さいわけで……
力関係を示すように、オレは床に這いつくばる。
「ごめんっ! 危ないことは……多分してない」
死ななくてよかったなって思った瞬間があったのは内緒の方向だ。
嘘は吐きたくないけれど、だからと言って本当のことを言って雪虫に心配をかけるようなことはしたくない。
「たぶん⁉︎」
以前はこれで流してくれたのに、今回はそうはいかなかったらしい。
オレのちょっとした言葉の言い回しに気づいてくる辺り、色々な人と交流を持つようになったからだろう。
そう思うと、嬉しくもあり……悲しくもある。
「本当! 本当です! だから大きな怪我もしてないし、今日はこうやって会いに来れてるんだ!」
「でも、昨日は来なかったよね」
そういうと雪虫はちょっと顔を逸らしてすん と鼻を鳴らすような仕草をみせた。
「ここにはきてたのに」
「う……だって、瀬能先生がもう遅いからダメだって」
「瀬能がそういったの?」
「うん」
「……じゃあ、しょうがないな」
ツーンとして頬は膨らませたままだったけれど、雪虫はどうやらオレを許してくれるらしい。
……ってか、下から見上げた雪虫も可愛いから、もうしばらくここから見上げてたいって思うんだけど。
「じゃあ、じゃあ……ベッドに上がっていいよ」
仁王立ちをやめて座り込むと、ぽんぽんと自分の隣を叩いてくる。
そうすると見上げてたいっていう考えはあっという間にどこかへ行ってしまって……オレは急いで服を払ってから雪虫の隣に腰を下ろす。
見上げても、見下ろしてもいいけれど、やっぱり隣に座りながら顔を見ているのが一番いいなって、まだちょっと怒りの感情を見せている雪虫を眺めながら思う。
「……もう、痛くない?」
細い指先はオレの腕の手当て痕を恐る恐る触ろうとして……結局触れずに慌てて引っ込んでしまう。
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