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雪虫5 67

 セキや東条、それからうたのことを思い出して思う。  オレには二人が運命かどうかなんてわからないけれど、大神のセキへの執着は半端ないし、二人でいる時の空気感とかお互いの表情とかをみていると、絶対に相思相愛のはずだ と、思ってた。  それなのにあんなこと……オレは、例え上下関係があるのだとしても雪虫をそういう目で見る人間に近寄らせない、想像しただけでも無理だ。  東条のように雪虫に逃げられることも無理だ。  二人の間に何か事情があるんだろうってことはわかってるし、瀬能が言ったようにわずかなずれが積み重なることもあるんだろう。  だからといって、雪虫に背を向けられたら……  ぶるりと体を震わせると、雪虫がちょんちょんと腕を叩いて首を傾げてくる。 「しずる、おつかれ?」 「うぅん、大丈夫。ありがとう」  頬に垂れた髪を耳にかけてやりながら、けれど と思わず眉間に皺を寄せてしまった。  それらもすべて番がいてこその話で……うたはそれ以前の話になってしまうんだって考えると、番うことのできない孤独感はどれほど深いのか想像もできない。  雪虫に出会ったから余計に一人だった時を思い返すと孤独に思える。    ふとした瞬間に感じた寂寥と沈痛さは、雪虫がいなかったからだってわかってしまう。  銀糸に近い金色の髪をくるくると指先で弄ぶと、くすぐったそうにくふくふと笑いながら身を竦める。 「かぁー…………わいいなぁ」  本当は息が続く限り伸ばしたいけれど。 「しずる、しずる」 「ん?」 「あのね、みなわに、ちゅ じゃない、キスのしかたもならったよ?」  雪虫の部屋には他に誰もいないのに、そっとオレの耳に手を添えてぽそぽそと囁く。  小さな声と漏れた吐息が耳の産毛をくすぐるから、オレは慌ててティッシュを追加して鼻を押さえる。  せっかく止まりかけたかな? って思っていたのに、振り出しに戻ったかもしれない。  おかげで雪虫の匂いを嗅ぐどころじゃなくて、それはそれでちょっと寂しかった。   「ど、どんなの?」  さっきのおまじないがちょっとアレだっただけに、変な期待を込めて尋ねると雪虫の瞳がきらりと光る。 「まずね、おでこはおめでとーのキスだよ」  そう言うと雪虫はオレのおでこに伸びあがってちょんと口づけた。 「それから、みみはね、えっちしよってことなんだって」  ちゅ と耳元でリップ音が響いて、思わずうひぃぃぃぃと甲高い喘ぎ声が出そうになる。  さっきの今だから舌を入れて―とか、軽く吸いついたり―とかするのかなって思っていたのに、まさか体にキスされるなんて思ってもいなかった。  

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