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雪虫5 72

 男の子は色々大変だもんね なんて冗談のような本気のような口調で揶揄われたのを思い出しながら……海岸沿いに木の植えられた公園を走り抜ける。  海岸に沿って海風を防ぐためにあるこの木々が鬱蒼とした細長い公園は、ちょっと昼間でも薄暗くて警戒する部分もあるけれど、ランニングするには最適な場所だった。  時折鼻をくすぐる海の匂いと、木々の足元に積もった落ち葉から香る湿った匂いと、それからどうしても忘れられない嫌な臭いと……  昔だったらあっという間に息が上がったんだろうけど、ずっと走る生活を続けているか息は弾むが足を止めようとは思わなかった。 「なんっでっ」  なんで、雪虫に他のαの臭いがついているんだ⁉︎  一瞬、ほんの一瞬だけ、もしかしたら雪虫の中に新しい命が なんて考えないこともなかった。  でも……産まれていたならともかく、産まれる前の命の性別のフェロモンがわかるなんて聞いたこともない。それに、あの施設は常にバイタルチェックがされるようになっていて、何か変化があれば今日のようにまず瀬能から連絡が来るだろう。 「……っ、  子供……」  オレと雪虫の?  東条の子供を抱いて感じた重さとか温かさとか、大人とは違う甘い匂いとか……そういったことを色々と考えて、胸が苦しくならないわけじゃない。 「まぁ、でも、そのことについては結論が出てるし……」  将来的にみても、はっきりと無理だと瀬能に言われてがっかりしなかったのはオレの想像力が貧困なのと、雪虫がいてくれるならそれでいいってのと、親がよくわからないせいだ。  慎ましく親子三人で暮らしていた幼い頃の記憶が残っている分、急に変わった両親の態度や生活環境の酷さはなかなかに心の傷になっている。  少なくとも幼い時は可愛がっていた子供の、その精子で金儲けしようって考えがどうして受け入れられなくて……  将来、金に困ったら自分もそうなるんだろうか?  なりふり構わず金を手に入れようとするんだろうか?  親子の縁って、そんなものなんだろうか? 「ってか、違う違う! ……そんなことより、雪虫についてるフェロモンの話だ!」  深夜の公園でそう声を上げる。  木々に吸い込まれたせいでオレの叫び誰にも聞きとがめられずに消えて、悩みたくなくて走り回っていたのに再び同じ問題で呻くことになった。  きっと、セキに相談したら解決できるだろう問題だ。  何せ二人は仲がいいし、オレのいない間はセキが雪虫の世話をしてくれているんだし。  けれどそれも今はできなくて……

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