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雪虫5 73

 雪虫のことをうじうじと悩みたくなくて走り回っているっていうのに、結局雪虫のことを忘れるなんてできないし、セキのことまで思い出してもう頭の中はめちゃくちゃだ。  深夜の人気のない公園だからちょっともやもやすることを全部怒鳴り上げてしまってもいいんじゃないかって、すっと息を吸い込もうとした瞬間、遠くで人の気配がして飛び上がった。  習い性で、自分で進んできた場所だけれど、こんな薄暗くて怪しい雰囲気のところで人の気配がするとついつい隠れてしまう。  さっと木立の中に入って、こちらに近づいてきていた人間が一般人なのか……それともそうじゃないのかを見極める。  普通に過ごしていたらしなくてもいいこんなことも、大神や瀬能に関わっているからしなくちゃならない。  大神を脅そうとしている奴らが弱みを探して日夜奮闘しているらしいし、瀬能の研究内容や瀬能が直接診ている患者の情報とか、様々なこと狙っている。  どうやら、世間はいろいろ知りたいことが多いらしい。    どうしてもじっとしていられなくて走っていたけれど、考えが浅すぎたかっも知れない。  雪虫もそうだがオレも研究所でいろいろと秘密にしなきゃならない情報を抱えている身だ。  もう少し慎重になるべきだったんだろうけど……はいわかりました! で気持ちをばっさりと刀で切ったように切り替えられるほど、オレは大人じゃなかった。  走っていたために少し弾んでいる息を整えるために、ゆっくりゆっくりと教えられた呼吸法を繰り返す。  そうするとあっという間に体が落ち着いていって、オレは深夜の木立の中に溶け込むことに成功する。   「────  」 「────   、  」  ここは海岸のすぐ傍で、遠浅だから大きな船は入り込めないが、人目に触れにくい小さな船は入り込みやすい。  しかも海風を避けるために鬱蒼とした防風林が人々の視界から公園を覆い隠して……犯罪の温床になりやすい場所だと言われている。  実際、以前雪虫が誘拐された時も、この先にある城址の地下から海に出て逃げる算段だったようだったし……  何はともあれ、こんな時間にここにいるのは、おまわりさんに職質されても仕方ないような状況ってことだ。  声が近づいてくるのに合わせて木を回り込むようにして隠れる。 「  だ、ほんと   ぃ」 「  あぁ、そうだ  」  話の内容は他愛ないもので、傍で聞いていたらただただ友人二人で食事して、ぶらぶら歩きながら酒が醒めるのを待っている って雰囲気だった。  ────袋に入れた人を抱えてなければ。  木の裏に入り込みながら、思わず口を押えて体中に力を入れた。

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