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雪虫5 74

 二人組が話しているのはなんてことのない話ばかりだ。  オレが隠れている木を通り過ぎるまで、本当にただの日常会話を繰り広げている。  何もなく通り過ぎたのならば記憶にも残らないような、そんな話だ。  けれど、二人が抱えた人型の荷物が微かに呻き声をあげると、会話が途切れて…… 「薬切れた?」 「やべ、のんびりしすぎたかな?」 「わざわざここを通れなんていうから……もっと近道もあっただろ」 「ここを通ったらタグが反応しないんだってさ。夜中は不気味で人も通らないしな」  そう言われて、「あー」と納得の声が上がる。 「タグで管理されてるなんて、マジこいつら家畜だな」  はは とあがった笑いはよく聞くΩを馬鹿にするような口調だった。 「放牧場だってさ、ここ」  思わず声をあげそうになったのを飲み込むと、二人の男の言葉に眉間に皺が寄ってしまったのを感じた。  つかたる市にバース性や体調管理用のタグが導入され始めた時に話題になった内容で、手首につけるリストバンド型はともかくとして、ピアス型のタグはまるで家畜のようだ と反発が多かったのだと以前に瀬能が言っていたのを思い出す。  確かに、手首にタグをつけていると邪魔だと思うこともあってピアス型は便利だと思ったけれど、それが羊や牛の耳に付けられている耳標のようだと感じた。  耳に付けられたタグによって個体識別や体調管理をされているのだから……  けれど、それをまるっと人間に当てはめて人が家畜だというのはあんまりにもな言い様だ。 「  ぅ」  男達の言葉に抵抗するかのように、袋からわずかに出た足が空を蹴る。  そのわずかな抵抗に、男達ははっと表情を引き締めると歩く速度を早めて……  木が風に靡く音に足音がかき消されてしまうまで、オレは木の後ろで固まったままだった。 「  っ」  ごく と飲み込んだ唾が音を立ててくれて初めて、そっと顔を動かして男達の向かった方を見ることができた。  力が抜けた足が自然と折れてへたり込むと、異常な速さで動いている心臓を宥めるために胸に手を置く。 「ぁ? なん、だ、あれ」  上ずった声が出たがそれでもやることは決まっている、携帯電話を取り出して……瀬能か警察か?  警察に通報すればまず間違いないのはわかっていたが、男達の話を聞いていると瀬能に連絡を取った方がスムーズに話が進みそうな気がする。 「とりあえず……相談すれば   」  カツン と爪が画面に当たって思いの他大きい音がした。  自分で立てた音なのに飛び上がってしまうほど驚いて……しぃんと静まり返った空気に笑われたような気がして慌てて首を振る。  

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