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雪虫5 77

「  っ」 「少し、手を握ってもいいかな?」 「ぇ  」 「怖くって、いい?」  そう言いながら彼は縛られたオレの手を握ってくる。  硬く握っていたせいで血の気が引いていたのか、彼の手が触れると飛び上がりそうなほどに温かい。  ぎゅっと握り込まれて、振り払うこともできないでなすがままになっていると、手の熱がじわじわと移ってきて心が落ち着いてくる。  傍らに寄り添われて……この人はオレを落ち着かせたかったんだってわかった。  起きたばかりでパニックになっているオレよりも、この暗い中でずっと意識のあった彼の方が怖かっただろうに…… 「ぁ、ぅ……す、すみません、落ち着きました」 「うぅん、僕が怖かっただけだから」  少し力が弱まると、彼の手が微かに震えているのがわかる。  朧気には見えるけれど、力なく落とされた肩が彼の消耗を物語っていた。  オレはとにかくわずかでも情報が必要だと、もう一度慎重に辺りを見回す。  高い位置にはめ込み式の茶色いライトがついてはいるけれど光は弱くて部屋のすべては照らしきれていない、むしろ下手に小さな明かりがあるから深く影が落ちて、闇がのしかかってくるような雰囲気がある。  何もない と言ってしまってもいいような部屋に四人、両手と両足を縛られて放り込まれている状態だ。  手首を縛る縄を何とかできないかと見てみたが、細い縄で硬く結ばれているせいか自力で解けそうにはなかった。 「ここがどこかわかりますか?」 「……海、かな。河かもしれないけど  」  そう言われて、わずかに揺れる感覚に頷く。   「オメガだからって言ってましたけど……」 「……僕も、彼らもそうなんだ」  彼は首を擦りながら呻くように言い、泣いている二人の方を振り返る。 「彼らも、番がいるオメガなんだ」 「オレは  」  オレはαですと言ったところで、混乱か恐怖を与えるだけだってわかったから素直に頷いておいた。  番がいるなら番以外のフェロモンを感じ取ることはできないし、オレの首筋には歯形があるんだからバレることはないだろう。 「何の目的でかは……ごめんね、わからないんだ」  彼はそう言ってオレの手を慰めるように撫でた。  細い指は頼りなくて、αとかそんな部分を抜きにしても守らなきゃって思わせる。  以前、大神はΩには価値があると言っていた。  美しい外見が多いから風俗に、美しいもの好きのコレクターに、それから子供を産ませる道具として。  いや、それだけじゃなくて……卵細胞も だ。  大神やうたが言っていた、Ωの卵細胞には価値があるのだと。

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