605 / 698
雪虫5 78
番のいるΩは番以外と性的な接触ができない、だからここにいるΩ達が何の用途のために集められているのか……ぞっとするような考えに辿り着いて、思わずぎゅっと手に力を入れてしまっていた。
「 っ」
「あ! すみませんっ……つい」
「平気平気、手首の方が痛いくらいなんだもん、気にしないで」
「あの、オレは阿川しずるって言います、お名前を伺っても?」
「阿川くんだね、僕は緑川だよ、緑川穂垂」
ホタル の名前に思わず飛び上がる。
「ホタルさんっ⁉」
「えっ」
飛び上がったオレに穂垂だけでなく後ろの二人も驚いたようだった。
「ホタルさん、オレ、貴方のこと知ってます!」
「っ⁉ え、なに 」
「正臣くん」
その名前を出した瞬間、穂垂の手がさっと肩を掴んだ。
不自由な動きでオレを揺さぶり、「正臣はっ⁉ 無事⁉」と鬼気迫る声を上げた。
東条が繰り返し、穂垂が子供を放り出していくことはないって言っていたのを思い出して、この様子だとそれが真実だったんだってわかる。
「東条さんが見つけました」
「と じょ そ、そんな……」
子供のことを尋ねた時とは違い、穂垂の声は震えて途切れがちだ。
その様子は番のことを話している雰囲気じゃない。
「み、見つかって……」
「でも、東条さんが見つけてくれたから正臣くんは大丈夫でした」
「 ────っ」
「空腹だったし汚れてましたけれど、東条さんがすぐにお風呂に入れてミルクも飲ませて……すごく大事に抱っこしてました」
「……」
穂垂は返事はしなかったけれど、それでも置いてきた子供のことを聞いて緊張の糸が切れたのか壁にもたれてしまう。
「今は……誰が?」
「すみません、そこまでは……東条さんが連れて帰られたので……」
「……じゃあ、奥様に預けられて……」
穂垂は呻くように言うと物思うように俯いた。
以前から東条が複数の番を持っていることは知っていたし、本人も隠そうとしていなかったからだろうけれど、自分以外の番の子を受け入れる感情がオレにはわからなくて、曖昧に「だと思います」だけ返す。
「ケガは? いつ東条さんが見つけたんでしょうか⁉ 長くミルクも飲めてなかったんじゃ 」
「オレが見る限り、正臣くんは健康に見えました、最初こそ体が汚れてて大泣きしてましたけど」
「……そう、よかった。うぅん……よくないのか……」
誰かに言おうとしていない言葉は返事に迷う。
確かに、子供は無事だとわかったところで自分はここに監禁されているんだから、事態は何も解決してないってことだ。
手首につけていたタグは当然のようにない、携帯電話もない、この状態でオレの位置情報を瀬能が探るのは無理な話だった。
ともだちにシェアしよう!

