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雪虫5 85

 埠頭に入り込んできた黒塗りの車の一団は警察には見えなかったから、大神が動かしている私兵……というか、黒服の皆さんだろう。  あの二人のΩが怯えてしまわなかったらいいけど と、味方が来たことでほっと肩の力を抜いた。  『戦いは、最後まで気を抜いたら、メ! …………死ぬよ?』    水谷が可愛らしく言いながらも最後に脅しをかけてきた、あの言葉をどうしてだか今思い出す。  鈴を転がしたような可愛らしい声で言われたセリフだった。  ────たん  音としてはとても小さかった。  オレが想像していたそれの音はもっと大きくて響いて、遠くにいても発砲されたってわかるようなものだと思い込んでいた。  けれど、実際に聞いた銃声は弾けるような小さな音で、何の音か全くわからなくて…… 「伏せて!」  東条の鋭い声が耳に届いて、オレは理由を聞く前にさっと甲板に体を伏せる。  穂垂は小さな悲鳴を上げてはいたけれど、東条に抑え込まれて物陰に押し込められていた。 「なん  「走れ!」  状況を尋ねる前に次の指示が飛び、オレは東条の指さす方へと穂垂を引っ張って走り出す。  その方向はオレ達が閉じ込められていた狭い船室のある方だったけれど、渡り板に向かって明らかに黒服ではない人間が駆け込んできていて、そちら側に逃げるしかない。  穂垂を連れて海に飛び込む?  そんなことを考えてみたけれど、海から上がる場所もわからないこの状況では飛び込むのを躊躇してしまう。  ましてや、男達の手には黒く光るものが握られていて……下手に動きの取れない海に逃げたら狙い撃ちだろう。 「あれって……拳銃?」  映像の中でしか見かけたことがないせいで、こちらに銃口が向けられているのに現実味がないままだった。  日本では、かつて起こったΩシェルターの襲撃を受けて銃の取り締まりと罰が今までにも増して厳しくなり、デメリットが大きすぎて使うメリットがないなんて笑われるような状態だ。  しかも、玩具としても拳銃の形をしたものはないし、公共の映像に拳銃は映してはいけないことになっている。  そんなこともあって、オレは銃を甘く見ていたんだ。 「すぐに応援がくる! 少しの間凌げればいい!」  そう言って船内に駆け込んできた東条が警戒しながら外を見て……険しい顔で振り返る。その顔の横をチン と何かが弾いていって…… 「っ  な、なんで、あんなもん持ってんですか⁉」 「なんでって……ワルモノだから?」  ちょっと苦笑が混じるようなオレをからかう時の笑顔に、肩を落として奥へと走り出した。  とはいえ、大きな船じゃない。

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