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雪虫5 86

 部屋の数もオレ達を押し込めていた部屋……と呼んでいいのかわからない部分を加えても、多くない。   「避難できる部屋はどこかになかった⁉」 「……いえ」    逃げる時にもっと周りを見ればよかったんだろうけど、そんな余裕はなかった。 「  っ」  隣を走る東条が険しい顔をして振り返ろうとし、チ っと顔の横を打たれてよろける。  ひぃ って声を上げたオレを振り返り、一瞬……東条は眉間に皺を寄せた。 「そこに入って」 「そこ? ここ⁉」  東条がオレ達を押しやったのは、閉じ込められていた部屋よりも人が生活しているって感じがする部屋だったけれど、それ以上に……むっとヒートを起こしたΩの匂いがした。 「⁉」  中にいた数人のΩは東条を見て悲鳴を上げて隅へと逃げるように身を寄せ合う。  その姿は……服を引き裂かれて、殴られて……明らかに暴行を受けた痕があった。  小さなテーブルの上に転がる薬は発情剤だろうか? 泣きじゃくりながら苦しそうに性衝動を堪えているΩ達に絡まるαの攻撃的な臭いに……オレはぐっと眉間に皺を寄せる。  オレ達と同じように手足を縛られたまま……首を噛まれていないこの人達はあの男共に辱められたんだろう。 「だ、だれ……あ、貴方たち  ……」 「オレ……オレはオメガです! 同じように捕まってて、逃げるために頑張っています!」  とっさに首元の歯形を示してそう叫ぶと、混乱の気配の強かったΩ達がほっとした様子に変わった。 「しずるくん! 早く入って!」    押し込まれながらも慌てて振り向くと、東条の顔色が良くないことに気が付いた。  こんな状況だ、青くなるのもわかる。  銃だって初めて見たし、顔の傍を撃たれている。 「なっ  と じょ、さ  」 「しぃー、ここに入って隠れて」  そう言うと後ろ手に閉めようとするから、「東条さんもです!」って声を上げた。  相手は拳銃を持っていて、対処の仕方を知らないオレ達がどうにかできるわけがない。瀬能が呼んでくれた味方が後ろから挟む形で撃退してくれれば…… 「この状態で君以外のアルファは入れないでしょ」  呆れたような声に、さっと背後を振り返った。  そこには薬を使われ、レイプされて傷ついているΩ達がいて……見た目からしてαだとわかる東条がここに入ってくれば、パニックになるのは避けられないだろう。 「だから、ここで対処するよ」    ガチャ と東条の手の中で黒い塊が音を立てる。 「それっどこで」 「殴り倒した男から」  簡潔に言い、東条はカチャカチャと拳銃の様子を見ている。 「早く入って」 「東条さんも入ってくださいっ!」  悲鳴に近い声がオレを飛び越えて扉の前に立つ東条にかけられて……穂垂がそんな声で東条を呼んだ理由に、オレはすぐに気が付いた。

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