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雪虫5 91

 ちょっとそこをからかってやろうかと、いたずら心がむくむくと持ち上がってくる。 「それじゃ、今日はこれで失礼します」  病院に向かう道と雪虫の部屋への道は正反対の方向だから、間違ったふりして雪虫の顔を見ることは難しいだろうな。 「もう面会時間は終わっているし、会いに行っちゃダメだよ」 「わ、わかってますよ!」  心の中を覗き込まれたような気がして、気まずいままにオレは急いで診察室を飛び出した。  時間が時間だから明かりは落とされていて、研究所内は今から幽霊が出ます! と言われても信じ込んでしまうそうなくらいおどろおどろしい。 「さっさと行こ!」  誰に言うわけでもないんだけれど、自分を励ますために自然と口に出して歩き出す。  自分の足音がコツン って床に音が響いて、どこかそわりとする。カツカツとあえて音が鳴るように調整しながら歩くと、自分の存在を確認できたような気分になってほっとできた。  昼間の死ぬか生きるかの騒動の後のこの静けさは耳に痛すぎて、つい大きな音を立てて病院側へと速足で進む。  カツ コツ カツ コツ……  自分の足音、それが少しずれて聞こえたと感じたのは食堂を過ぎた辺りだ。  オレの足音に被せるように背後から聞こえるソレは…… 「  ────っ」  思わずさっと振り返ると、そこにいたのはお化け……でもなんでもなく、御厨だ。 「は? え? 御厨さん⁉」 「ぁ、よかった! 阿川くんだった」  オレを見て少し泣きそうな表情を作ると、若葉と同い年くらいなのに随分と幼い雰囲気になる。 「包帯巻いてるから患者さんかと思って……」 「これは、ちょっと事故っちゃって。御厨さんはなんで……ここに?」    もうこの時間は面会終了で、外部の人間は立ち入れないことになっている。オレがここにいられるのも、瀬能の助手ってのと手当を受けてたって理由からだ。  でもそれも、病院に向かう道筋からずれた途端、警備員が飛んでくるって条件付きでのことだった。 「  っ、その、ちょっと話し込んでて……みなちゃんと  」  御厨は怯えるように言うが正直、オレにはなんでそんなことで怯えられるのかわからなくて…… 「あ!」  この人の中では若葉はオレの親だったんだって思い出して、つい声が上がってしまった。  二人の関係がこじれてるのはわかってはいたけれど、刃傷沙汰に発展しないなら自由にしたらいいと思う。  ……が、そうはいかないんだろう。 「父さんと?」 「そう! 君の……お父さんと……」  しょんぼりと肩を落とすされても、オレは救いの言葉を持ってない。   「それで、ちょっと帰ろうとしたら迷っちゃって……」 「ああ、それで半べそだったんですね」 「は、半べそ⁉」  御厨はひっくり返るような声を上げて顔を赤くしてしまった。

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