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落ち穂拾い的な 二人の結末 5

   肯定を示して、自分を望んでくれているんだと切々と訴える姿に、胸が苦しくなった。 「うちの幸せも、ミクちゃんがおらなあかんみたいなんやけど、どうしよ?」    腕の中で小さな頭が震えて、左右に動く。 「わからへん? うちもわからんねん。ずっとずっと、一人の人しか見てこんかったから、ミクちゃんのこと好きなんやろなぁと感じてはいるんよ。でも、どうしたらええんかなぁ、わからんねん」  幸せにすることもされることもわからない。  好きな人の傍にいるのが普通なのかそうでないのかもわからない。  自分が傍にいていいのかそれすらもわからない。  自分がどうしたら好きな人と過ごせるかよりも、どうすれば相手にとってマイナスの存在にならないかばかり考えてしまう。  息子に救われた命は、この研究所の中だけでしか生きていけない。  そんな人間といて、ミクは幸せになれるのか? 「じゃあ……傍にいてくれたらいいと思います」 「でもうち、ここから出れんから」 「僕が来ます! 毎日! 会いに来ます! そうしたら、ぼくもみなちゃんも幸せになれるって、思います!」  あまりにも簡単な答えだけれど、それはミクに負担を強いることになる。   「ミクちゃんが、大変やん? 毎日来てくれたら、嬉しいけど……」  耐えられなくなって、来てくれなくなったら?  自分はまたここで、ミクからの連絡を待って淀むんだろうか?  あの虚ろな日々を……   「毎日来ます! って、お約束はできないです。風邪ひいたらうつしちゃうといけないので会えないですし、仕事で残業になったりとか、出張とか……でも可能な限り、くるって約束はできます!」 「そんな大変なん……続かへんって」 「それは、やってみないとわからないことです! 僕のやる気をみなちゃんが決めないでくださいっ」  またも、自分が勝手にミクのことを決めつけようとしていたんだと、恥ずかしくなって俯いた。その先に、真剣な表情のミクがいる。 「みなちゃんを幸せにするために、僕の幸せを守ってもらえますか?」  何か反論を と口を開いたがそこまでで、それ以上の言葉は出なかった。  ミクのすべての言葉がすとんと心の中に落ちて、ぴったりと隙間なく落ち着いてしまっているような感じがした。  だから、 「うん、任せとき」  うずうずとざわつく胸中を感じながら返事をした。  お互い胸の音が奇妙なほど高鳴っていて、絡めた指先は熱くてどくどくと脈打っているのがわかる。  ミクの顔は真っ赤で涙目で、でも笑顔で……きっと、自分も同じ表情をしているんだってわかった。 END.

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