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落ち穂拾い的な 素朴な疑問 1
幾つかの資料をファイルに移し、しずるは「あ」と声を出した。
「あの、ちょっと、ホントにちょっとだけ気になったんで聞きたいんですけど、オメガの男って精子も卵子も持っているってことじゃないですか」
唐突な言葉だというのに、瀬能は平坦な声で「そだよー」と返事した。
当然のこと過ぎるためか、瀬能はしずるの方を振り返りもしない。
「じゃあ、もしかしてもしかしたら、男型オメガの人って……自分自身を産むことができるってことですか?」
そこでやっと瀬能はパソコンから目を離してくるりと振り返った。
爛々と光る目に、しずるはやってしまった……と呻き声を出す。
「1786年のとあるヨーロッパ地方の教会の話だよ、そこには元やんごとなきお方がいらっしゃった。とはいえ失脚して放り込まれた王族だからね、他と接触をしないように高い塔の天辺に閉じ込められていた。部屋はがらんとしていて最低限の家具だけがあり、窓は塔の天辺である天井にしか存在しなかった。部屋の扉は二重になっており、部屋側の扉は開けられることがないようにはめ込み式で、食事を通すためだけに足元の方がわずかに開けることができる。二枚目の扉は一枚目よりも一メートルは離された部分にあり、常に重苦しい錠前で鍵がかけられ、一枚目と同じように足元だけがわずかに開くようになっていた」
「厳重すぎですね、何やったんですか?」
「当時、近隣と一触即発の状態だったんだけれど、国の関係がその状態だってのに、その人は隣国の妻子持ちの王様を誘惑して国を混乱させてしまったんだ。元やんごとなきお方はあっさり処刑で済むようなお立場でもなく、また隣国の不倫王からも領土の一部と引き換えに元やんごとなきお方の御助命を願う親書が届いた。こうなってしまっては安易に処刑できないから生涯幽閉の身になんたんだよ」
どこの時代でも権力のある人間の手癖の悪さは変わらないものなのか と、しずるはげんなりと肩を落とす。
「かくして元やんごとなきお方は塔の天辺にたった一人、訪れる者は朝夕の食事を運ぶ人間のみだ」
「はぁ? それで」
どんどん、自分が聞きたいことから遠ざかっているような気がして、思わず合いの手がぞんざいになる。
「やんごとなきお方はたった一人でそこで過ごしていた……はずなのに、ある時泣き声が聞こえた」
「え?」
「朗らかな赤んぼうの泣き声だ」
「ちょ、ちょ、それって」
思わず身を乗り出すと、瀬能はにやりとした笑みを向けてくる。
食いついてしまった自分を恥ずかしく思いながら、咳を一つして続きを促した。
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