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モザイク仕立ての果実 2

 外に出て、就職先でαの男性と知り合った。  会社での評判も良くて格好良くて……会社にはΩや可愛い子達もいたから僕なんて気にもかけないだろうって思っていたけど、どうしてだかその人は僕と付き合いたいって言ってきた。  正直、αは怖くて……  番を持たないと危ないってわかっているけれど、母のように虐げられる日々を送るなら危なくても同じことじゃないか、むしろ特定の相手からずっと続く暴力を受ける方が辛いんじゃないかって。  だから断ったら、どうしてだかストーカーと化した。  僕のような、Ωにしては平凡というかβよりの外見の人間に振られたのがショックだったのか、それとも僕にそれだけの魅力が……あるとは思えないから、きっと母同様、父のような癖のあるαを呼び寄せてしまう体質なんだろう。  僕はすぐさまシェルターの職員の人に相談して、母と妹が住んでいる部屋にとりあえず居候することになった。  とはいえ、数ヶ月前まで暮らしていた馴染みの場所だし、妹は僕が帰ってきたって喜んでくれたし、母は何事もなかったことほっとしてくれていたから、よし だ。  しばらくは研究所の周りをストーカーが徘徊していたらしいけれど、ここにいれば安全だって知っているから怖くなかった。  外では確かに怖い目にあったけれど、安心できる場所があるんだってわかってるから、心は思ったよりも凪いでいる。  そんな生活の中で出会ったのが、雪虫だ。  最初は金髪碧眼だから外国人⁉ って構えちゃったけど、それがあってもなくても惹かれちゃうくらい可愛らしい子だった。  僕と違ってこじんまりとした背丈と顔の造りで、まるで絵本から抜け出してきたようなお人形さんだと思った。  柔らかそうな頬なのに肌は透明感があって真っ白で、髪は金色だと思っていたけれど裾に進むにつれて銀色に変化して、妖精の髪のようだ。きょときょとと怯えるようにこちらを見た瞳は潤む様子が湖面を思わせるような光を弾く青色で、人の手で作り得ない神秘さを漂わせている。  子猫のようにそろりとセキの後ろから顔を出しては、びっくりしたように引っ込んでしまう姿は、可愛いの一言に尽きた。 「ほーら、雪虫。挨拶しよ」 「……ん、雪虫、です」    それをうたがうながしながら連れ出して来て……ちょこんと椅子に座ると、そこだけが違う世界のようだ。  両脇をセキとうたに固められてもどこか不安そうな様子は、世慣れてなってことを僕に教える。  何とか話ができるようになるまでに随分時間がかかって、まだまだ笑いかけてもらうまでは行かなかったけれど、集まりに参加しなくなったセキの代わりに隣に座れるようになって……

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