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モザイク仕立ての果実 4

 親はどういう教育をしているんだとか、いろいろ思うところはあったけれど、それよりもまず僕を指さしてαって言ったそいつの見る目のなさに笑いがこみ上げた。  口の端がひくひくしてたけど、堂々と雪虫の番を笑ってやったらさすがに可哀想だ。  だから、ちょっと首を傾げて「え? 僕はオメガだけれど……」って返事をした。  ここのシェルターには随分前からお世話になっていて、ここにはΩじゃないと住めないって規則がある。  僕達自身もだけど、ここを訪れる全員が厳しいチェックと監視下に置かれているから、もし性別を偽ろうとしたって無理ってもんだ。 「確かに僕はちょっとオメガらしくない姿かもしれないけれど、こうやってネックガードもしてるし……その、ヒート もちゃんとくるんだ」  すごくデリケートな部分を言う時は、声を潜めて視線を逸らす。  この男はこんな言いにくいことを人前で言わせたんだって、雪虫に知って欲しかったからなんだけど……  チラ と雪虫の方を見ようとした瞬間、警備員が二人も部屋に入ってきた。  しかも、いつもの巡回の様子じゃなくて明らかに急いでここに来ましたって様子だった。そしてそのまま僕の方へきて、左右からさっと腕を拘束してくる。 「え……えっ⁉ 瀬能先生! これなんですか⁉ なんで僕、捕まって……」 「あー……巳波くんには申し訳ないけれど、彼がアルファの可能性があるって言うから少し拘束させてもらうね」 「はぁ⁉ 僕がオメガなのは先生が一番よくわかっているじゃないですか!」  僕の声を聞いて、瀬能先生は困った顔をしながらタブレットを操作して……困った顔で「もう一度検査しようか」ってぼやく。  僕はもっと小さい頃から瀬能先生を知っている、明らかにこの番よりも以前から知り合いだってのに、僕の言葉じゃなくてこいつの言葉を信じようとしたのが信じられなかった。 「産まれた時にも! ここに入所した時にもしました! 僕はオメガです!」  必死の形相で訴えると、瀬能先生はちょっとだけ憐れんだ顔をしてから警備員に連れて行くように指示する。 「間違えてたら、ちゃんと謝るから。検査を受けてね」  口調は柔らかかったけれど、それは命令だった。  そして、僕は研究所に併設されたシェルターから出て行かなくてはならなくなってしまった。  幸い、荷物は少なかったけれど…… 「あの、せめてアパートを見つけるまでは置いてもらえませんか?」 「ごめんね、ここの規則だから。この不動産に行ってごらん、いろいろと融通しもらえるように連絡しておいたから」 「…………」  瀬能先生が渡してきた不動産屋の名刺に目を落とす。 「じゃあ、せめて母と妹に会ってから行きたいです」

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