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モザイク仕立ての果実 5
せめてと縋った願いは、「申請を出してもらわないと難しいね」って言葉で突っぱねられてしまった。
会えない?
家族なのに?
「え……」
元々父親はいない方がいい家庭だったけれど、母と妹は別だ。
大事だった。
なのに、会うには事前に申請を出して、限られた時間しか会えないのだと言われて……
「は……?」
そんな馬鹿な話はあるもんか。
「でも、君がオメガとアルファの性モザイクだからしかたがないんだ」
そう言って瀬能先生は申し訳なさそうに指先を絡めて視線を落とした。
性モザイク。
しかもαとΩの。
あの父親があんなに欲しがっていたものを僕がすでに持っていたってことに驚きだったけれど、それだけじゃなかった。
僕の体は大半がΩの体なのに、股間……αが一番フェロモンを出す部分だけ、α遺伝子でできていた。
つまり、ナニとナニの周りの部分だけがαってことだ。
瀬能先生は虫の標本を見せながら性モザイクについて沢山説明をしてくれたけれど、いきなりαだった なんて言われた僕の脳は固まってしまってほとんど覚えてはいなかった。
体の部分部分で、各性別の特徴を持っている……なんて、そんな改造人間みたいなことあってたまるか! って言い返したけれど、その度に丁寧な説明が返されて、僕の体がΩだけじゃないって思い知らされるだけだった。
ゆえに、Ωシェルターとして機能しているこの研究所に立ち入ることが厳しくなってしまった。
それこそ、スポンサーとか特別に働いている職員とかじゃないと……
「もちろん、珍しい症例だからね、いろいろ調べさせてくれるならもう少し簡単に研究所に入れるように便宜は図れるよ」
そう言われても、はい! モルモットになります! なんて勢いよく言えるわけもなくて。
「……少し考えさせてください」
ぽつんと返事を返すのが精いっぱいだった。
こうして、僕の初恋は雪虫の番によってとんでもない形で邪魔されて終わってしまった。
「あのっモブ顔っ! 邪魔しやがってっ!」
雪虫の番だからって、ちょっと愛想よくしてやったっていうのに、その恩を仇で返されてしまったら立った腹の収まりようがない。
数度ほど完璧な暗殺計画を考えて、めんどくさくなって放り出した。
目を閉じると、ふわふわとした銀に近い金の髪と透き通るような肌と青い目をした雪虫の面影が瞼の裏に蘇る。
とても可愛い子だ。
あまり喋らないからか、少しつっかえつっかえ話すのが可愛らしくて、照れると皮膚の薄い目元を赤くしてはにかむ。
唐突に取り上げられてしまった僕の宝物だ。
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