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モザイク仕立ての果実 6
大事な大事な、心の支えだ。
「とはいえ、とにもかくにも……寝床だよな」
瀬能先生がくれた名刺に視線を落とし、自分を追い出した相手の情けにすがるのもなんだか嫌で、えいや! と握り潰して背後に放り投げた。
公園の茂みなんだから、名刺の一つぐらい投げ入れたっていいだろう。
どうせ、誰も気にしたりなんかしない。
「これから、どうしようかな」
母は長年の暴力と精神的な抑圧で働ける状態じゃないし、妹のこともあるから頼る なんてできないし。
父親は論外だ。
友達はー……いないこともないけれど、きっとしばらく泊めてって言ったらあんまりいい顔をしてはくれないだろう。
どうしたものか とベンチの背に勢いよくもたれかかると、盛大な軋みの音がして空が見えた。
もう日は沈みかけていて、なんと表現していいのかわからない薄暗い色が視界一杯にひろ……がらない。
「……ぎ、ぎっ 」
ぎゃーって叫びそうになった僕の口を、大きな手が塞いだ。
「っ! っっ!」
「み、巳波ちゃん! お願い! 声出さないで! 次に警察にお世話になっちゃうといろいろまずいんだ」
アセアセと焦りながら潜めた声で言ってくるのはスートカー……じゃなくて、αの元同僚の喜多だ。
ゆるく出された額が、僕を覗き込むから前髪が乱れて垂れて、少し幼く見える。
仕事中は眼鏡をつけているけれど、それ以外は裸眼だから瞳がカフェオレ色なんだってよくわかって……宇宙を覗きこんだ気分になった。
街灯の灯りがチカリチカリと瞳の中で弾けると、新たに星が生まれるんじゃないかって願ってしまう。
「……喜多さん、どうしてここに?」
「たまたま、たまたま歩いてたら研究所から出てくる君が見えたから。……その、研究所に入れないみたいだったから……困ってるんじゃないかって思って」
「なんで盗み聞きしてるんですか⁉︎」
「ちがっ……盗み聞きじゃなくて、傍の電柱の影にいたら勝手に聞こえてきたというか……」
それを盗み聞きというのだとこの男に教えてやらなくちゃいけない と、携帯電話を取り出して警察への番号を打ち込む。
「わぁぁぁ! ホントやめて! お願いっ」
バタバタ とベンチの前に回り込むと、ここが外だってことを感じさせない勢いでがばりと土下座する。
鈍い音がしたから、きっとおでこには砂利が食い込んでいると思う。
「ね? この通りだから!」
「……」
瞳と同じように、少し明るめの髪が足元で揺れていると、あれだけΩを馬鹿にしたαなのにって感情がむくむくと立ち上がってくる。
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