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モザイク仕立ての果実 10

「あ、ココア! 出てきちゃったのか」  呑気にそう言いながらこっちにくると、喜多は僕の上に乗っかってふんふんふんふんと臭いを嗅ぎまわっている毛むくじゃらをひょいと持ち上げた。  恐る恐る顔を上げると、喜多の腕の中にすっぽりと収められたモップがいた。 「い、犬……でしょ?」  問いかけに、毛の塊がもぞもぞと動いて耳がぴこんと飛び出し、黒い目が見え、さっき僕を嘗め回してくれた舌を備えた口が見えて…… 「紹介するね。ココアもちだよ。犬種はシュナマル……えっと、ミニチュアシュナウザーとマルチーズの子なんだ」 「シュ? ミニ……マ  ?」  喜多の言っていることが全然わかんない。  何か呪文でも言って人を惑わそうとしているんじゃないかって構えたけれど、喜多は犬を構うのに必死のようだ。 「ココア~! ご飯が済むまでは寝室にいてくれないと」  人間の子供に言い聞かせるように話しているけれど、犬が人の言葉を理解するはずがない。  お座りとかお手とか、しつけなら何とかなるだろうけれど、犬に向けて人の言葉で延々と話し続ける意味が分からなかった。  同じ生き物ですらないのだから、話して理解し合えると思っているなんて変だ!  ちゅ ちゅ と犬にキスをしている喜多を見ているとげんなりとしてくる。  僕は犬が大嫌いだ、だから余計にそんなことをしている喜多に対して嫌悪感が募ってしまって…… 「ぼ、僕、やっぱり出て行くよ」 「えっ⁉ どうしたの? ……あ、ココア? 犬が苦手だった」 「苦手じゃないです!」  苦手なんてもんじゃない。  憎くて憎くて仕方ない。 「でも、同じ空間にはいたくないから、出て行きます!」  荷をほどく前でよかった!  カバンを一つ引っ掴むと、犬を抱き上げたままの喜多を避けるようにして玄関の方へと行こうとする が。 「わんっ!」 「ぎゃあああああっ!」  鋭い鳴き声に取り乱すと、荷物が落ちてけたたましい音がする。  きっと噛みつく気なんだって、しゃがんで頭を庇って身を固くして……カタカタと震える手にぎゅっと力を入れた。 「巳波ちゃん? ココアもちは危害を加えるような子じゃないから! 怖いんだったら寝室に閉じ込めておくから!」 「と、閉じ込めれてないから飛び出してきたんでしょう⁉ っ、その犬がいるんなら、僕は出て行きますからっ!」  犬 は、怖い。  犬 は、父の言うことだけを聞いた。  犬 は、重く、臭く、どろどろの涎を垂らしながら僕を押さえつけて、父の指示のままに……  さっと首に手をやって喉元を庇う。跳ね上がる心臓のリズムが指先に伝わってきて、僕がどれほどパニックに陥っているのかを教えてくれる。  

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