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モザイク仕立ての果実 14
昨日まではにこにこしていたのに……
「あ、あの……特別に、なんとかなりませんか?」
科を作って涙を目の縁でとめて、うるるんとしながら見上げてみると……
「駄目です」
ばっさりと断られる。
以前はこれでちょっとしたことなら融通してくれていたのに。
「……今から申請して、いつ会えますか?」
「面会室の空き具合にもよりますから、二、三日は待ってもらいます」
「そんなに!?」
三時間後とかならなんとかなるけれど、そんなには待てない! 実際に今、お腹はぐーぐー鳴ってて今にもへたり込んでしまいそうだ。
「大変申し訳ないのですが、ここで長時間交渉されると警備員を呼ばなくてはならなくなります」
受付の堅苦しい言葉はそのままの意味で脅しだ。
ブラックリストになんか入ったら、今度この研究所には一切入れなくなるし、周辺に現れるだけで警戒されるようになってしまう。
そうなる母と妹に会えないし、雪虫にいたっちゃちらっと見ることすらできなくなる。
「……じゃあ、申請していきます」
細かい面会のルールを説明されて、僕はこの研究所の奥の方には行けないし、会えるのは申請をした家族関係にある相手だけで、それ以外の入所者には会えない。
会えない。
雪虫には会えない。
「……親友なんです、その子には会えませんか?」
「手紙ならお届けできますよ。検閲をさせてもらいますけれど」
「…………」
そんなことを言われてしまうと何を書いていいのかわからなくなってしまう。
しかも、まずいことを書いていたら雪虫の手元には届かないってこと?
不満が顔に出てたのか、受付の人が僕の口元を見て肩を竦めているのが見えた。
知らず知らずのうちにへの字に曲げてしまった唇から、「ありがとうございました」って言葉を絞り出して背を向ける。
携帯電話と財布がないとこんなに詰むとは思わなかった。
とにかくこれからー……公園で水を飲みながら面会日まで過ごす日々になりそうだ。
うまく飛び込みで雇ってくれるバイトでも見つけれたらご飯くらいは食べられるかもだけど、三日働いただけじゃアパートは借りられないからやっぱり寝床は公園になる。
「ネックガードがあるから、噛まれるのは大丈夫だろうけど」
一部はαだっていっても、僕の体のほとんどはΩなんだからΩのフェロモンが出るし、力が強いわけでもない。
αに押し倒されたら逃げられないってのは、今までの人生でよくわかっている。
「 ────ぅわっ」
嘆くしかない人生に空を仰ごうとした時、背中に不躾な声がぶつけられた。
何事⁉ って思って振り返ると、モブ顔αがやっぱり僕を指さしている。
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