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モザイク仕立ての果実 15
「あ! あんた!」
なんか知らないけれど、こいつが僕からαのフェロモンがするって言ったから、僕の人生狂いまくった。
これがドラマだったら持っていたナイフで刺してやるところんなのに、残念ながらナイフは喜多の家に置いてきた荷物の中だ。
今日も片腕はギプスだし、あちこちガーゼを貼っている男をぎっと睨む。
「ちょ ちょっと! なんであんたが研究所に入れてるの⁉ ここは、アルファの入所には制限がかかっているはずなのに!」
「あー……オレ、瀬能先生の助手だから」
「は、はぁぁぁ⁉」
「それに、オレ自身が瀬能先生の研究対象でもあるから、昼間なら自由に入れるんだよ」
僕の不躾な言葉に、奴は思いの他いろいろと言い返してくる。
「何それ! ずるくない⁉」
「ず、ずるくは 先生の助手は忙しいし、研究対象だから人権なんてなかったりもするし……はぁ」
カクン と肩を落としたそいつは、「じゃあ雪虫が待ってるから」って上から目線のマウントセリフを吐いて研究所に入って行った。
僕があれほど食らいついても中に入れてくれなかった受付の人が、にこやかにどうぞ~ってしている。
「っなっ! なんでだよっ! あいつもアルファ……むしろ僕よりアルファなのにっっっっ!」
地団太踏んでる僕をちらりと一瞥してから、ウザい奴は建物中へと姿を消した。
「っっっっっ! 悔しいぃぃぃぃぃっ!」
ギリッて音がするくらい奥歯を噛みしめて拳を振り回してもどうにもならない。
ここを離れる時に瀬能先生の言葉に従って、研究対象になる! って言っていたら……また何か違っていたのかな? でも僕には体を切り刻まれるような、そんな研究に協力する勇気なんてない。
結局、ちょこっとαがあったとしても、Ωには何もできないってことだ。
「 ────巳波ちゃん」
「わっ! わあああああああああっ」
背後から聞こえて来た喜多の声に、条件反射でつい悲鳴を上げてしまった。
っていうか、こんな研究所前なんて偶然に出会うようなところじゃないんだから、誰だってびっくりするだろう。
「ま、またっ追いかけて来たんですか⁉」
「か、勘違いしないで! 朝から追いかけてたんじゃないよ? ちゃんと会社行って今日の分の仕事終わらせて、半休貰ってきたんだ。巳波ちゃんは荷物を全部置いて行っちゃっただろ? 散歩かなって思ったけれど、なかなか帰ってこなかったから探しにきたんだ」
一気に言われた言葉に気圧されて、曖昧にあーうーと返事を返した。
「じゃあ、荷物ください。昨夜はありがとうございました」
「荷物はまだ家なんだ」
「チっ」
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