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モザイク仕立ての果実 16

 使えねぇなぁって考えるよりも早く舌打ちが出てしまっていた。 「じゃあ取りに行きます、今からでいいですか?」 「うん、午後からはなんの用事もないから大丈夫だよ」 「……あ、でも」  喜多のマンションへと足を向けようとして立ち止まる。  荷物は確かに大事だったけれど、あの部屋には大嫌いなけむくじゃらがいて、ちょっと油断をすると飛びかかってくるかもしれない。 「……近くの公園で待っているんで、持ってきてもらえますか」  尋ねるっていうよりも決めつけに近い口調で強く言う。  うちの子はおとなしいからとか小さくて可愛から大丈夫だとか、聞きたくもなかった。 「ココアもちのこと、やっぱり苦手?」 「……」  つん と顔を逸らす。  苦手とかそんな感情じゃない。  僕が犬に対して抱いている感情をαにわかってもらおうとは思わなかった。 「じゃあ、ココアは友人に少し預かってもらうね」 「は? 荷物さえ持ってきて貰えばいいんですけど」  わざわざ喜多の部屋に行く理由はなくて、喜多が荷物を持ってきてくれればそれですべては解決する話だ。  お腹は空いていたけれど、ここから喜多が荷物をとって戻ってくるまでくらいなら我慢はできる。 「昨日、言ってたから、少し薄味にして巳波ちゃん用のご飯を作っておいたんだ。朝から何も食べられてないんじゃないかな?」 「ん゛っ……」  思わず視線を下に向けて咳払いをした。  確かにお腹は空いていた、こうして向かい合って話している間に二回ほどぐーぐー音を立てたくらいで…… 「せっかく作ったから、せっかくだし……食べてもらえないかな? 余らせちゃっても勿体無いし」  はは と気の抜けるような声で笑い、喜多は窺うように僕をチラチラ見た。 「っ……」  その間にも一度、グゥってお腹が鳴って…… 「も、勿体無いから……いいですよ」  今から荷物が手元に来る時間プラスご飯を買う時間を考えて、僕は仕方なく妥協した。  コトコトとテーブルに並べられていくお皿が音を立てる。  昨日は作り置きでる料理が多かったけれど、今回はお豆腐やアボカドのサラダなんかがあってわざわざ今日作ってくれたんだってわかった。  部屋の茶色い毛むくじゃらはどこにもいなかった。  ここに向かう途中、喜多が友人らしき相手に電話をかけて預かってもらえないかって頼み込んでいて、僕達が着く前に連れ出してくれていたみたいだ。  喜多の家の犬を預けるってことにちょっと罪悪感が湧いて申し訳ない顔をすると、「残業の時はよく預かってもらってるから」ってフォローを入れてくれた。

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