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モザイク仕立ての果実 17
だから、そこここに犬の気配はあるものの、本体がいないからか僕はほっと胸を撫で下ろして、昨日よりも随分と寛いだ気分になる。
「インスタントになっちゃうけど、スープと味噌汁ならどっちがいいかな?」
「コンソメスープじゃないならスープがいいです」
目の前に並べられたこんがりと焼き目のついた鶏もも肉に目を奪われながら言うと、「クラムチャウダーだよ」って返事が返った。
「ナニソレ、最高!」
母が貝類が苦手だから食卓に登ったことはなかったけれど、僕は給食で食べて以来それが大好きで……給食を食べるような歳じゃなくなった今、なかなか食べられないもののひとつだった。
「じゃあ準備してくるね、先に食べてて」
にこにこと穏やかな笑顔を見せて喜多はキッチンの方へと姿を消す。
先に食べててと言われたのだからそれでもよかったんだけど、さすがに気が引けてスプーンを弄りながら待つことにした。
アボカドのサラダに豆腐を使ったグラタン、多分テリヤキ味の鶏ももとりんごも剥いてある。
香ばしい匂いが鼻先をくすぐるから、つい体を揺らしながらキッチンへのドアを睨んでしまう。
料理を並べる間にお湯を沸かしておけばいいのに……
ぐーと鳴る腹を宥めるためにスプーンを唇に押し当ててみるけれど、それで空腹はましにはならない。
「お水もらえませんか?」
「まだ?」の代わりにそう尋ねる。
「麦茶あるよ」
短い返事がして、喜多がマグカップを持ってくる。
中にはまだ人肌以上に温かい麦茶が入っていて……
「まだ冷めてないんだ、冷たいのがいい? お水なら冷えてるのがあるけど」
冷たいのがよかった とは思うも、そこまでわがままは言えない。
喜多の差し出してくれたマグカップを受け取って、そこまで熱くはないけれどなんとなくふぅふぅと息を吹きかけてみる。
猫舌ってわけじゃないけれど、熱いのは苦手だった。
「はい、お待たせしました」
喜多はスープ皿をふた皿置くと、僕の向かいに座って手を合わせる。
「お腹空いてるのに待っててくれてありがとう」
「別に。……これ、食器、買ったの?」
昨夜は一人分しかないって言っていたけれど、目の前のテーブルには全部の食器が二人分ずつ揃っていた。
喜多が嘘を吐いていたんじゃないなら、そういうことだろう。
「うん、友人が遊びにくる時に不便だなって思ってたから、いい機会になったよ」
さぁ食べて と促されて手を合わせてから口に入れる。
昨夜の料理も美味しかったけれど、僕好みに少し薄味になっているからかもっと美味しく感じる。
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